小児甲状腺がん
2017/12/26 - 07:13

甲状腺検査4巡目に向け激論〜学校検診の行方は?

東京電力福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」の検討委員会が25日に開催され、事故当時18歳以下だった子どもを対象に実施している甲状腺検査をめぐり、委員の間で激論が交わされた。来年5月から4巡目の検査に入るが、検査の方向性やデータの把握に関する議論は錯綜しており、迷走が続いている。

公表されたデータによると、今回新たに穿刺細胞診断を実施して悪性または悪性の疑いと診断された患者はいなかった。しかし2巡目で1人、3巡目で4人、計5人が新たに手術を受け、いずれも甲状腺乳頭がんと診断された。これで、甲状腺がんと確定したのは159人となった。

検査の見直しめぐり議論
今回の検討委員会では、来年5月からスタートする4巡目の検査のあり方についても大きく意見が対立した。日本甲状腺学会の推薦で10月から委員に就任した大阪大学の高野徹委員は、「想像するのが恐ろしいくらい過剰診断が起きている」として学校での一斉検診を辞めるよう求め、検査の変更を迫った。また国立がんセンターの津金昌一郎委員も、「第3期がん対策推進基本計画」において、「有効性(がんによる死亡の減少)が確認されたがん検診を正しく実施する」ことが謳われているとして、検査を見直すよう求めた。

これに対し、検査を担当している緑川早苗医師は、患者に対し「早期診断にメリットがないことを説明できていない」と回答。福島県立医科大の放射線医学県民健康管理センターが、甲状腺検査について、「早期発見早期治療にメリットがない」との立場で検査を実施している姿勢を鮮明にした。

一方、成井早苗委員は、福島県内の甲状腺検査は住民の不安のもとに実施していることを考慮すべきだと指摘。「今のご議論は一般の病気」「不安は消えていない」として、丁寧なインフォームドコンセントと心のケアサポートが大切との考えを主張。また、福島大学の富田教授は社会学者の立場から、調査方法の変更に反対し、検査の継続が大切だとの考えを示した

これらの主張に絡み、終了後の記者会見では高野氏に質問が殺到。高野氏が「ほとんどが過剰診断」と述べたことについて、記者が15歳以下のケースについて問いただすと、高野氏は「15歳以下の剖検では、過剰診断はない」と回答し、15歳以下の甲状腺がんの発症が「過剰診断」ではなく、放射線被曝による過剰発生の可能性を否定できないことを強く示唆した。県のデータによると穿刺細胞診で悪性ないし悪性疑いと診断された194人のうち、診断当時15歳以下だった子どもは全体の3割弱にあたる53人にのぼる。


(甲状腺がんと診断された時点での年齢別人数)

甲状腺腫瘍の診療ガイドラインによると、甲状腺癌の危険因子としてもっとも信頼できる情報(グレードA)として挙げられているのは、小児期の「放射線被曝」と「遺伝」の2つ。「被曝影響」を否定する中、長崎大学の山下俊一教授は2014年、別の原因を特定しようと研究に着手。大量農薬使用による水質汚染に着目し、川内村の飲料水の硝酸・亜硝酸動態を測定し、その因果関係を検討する研究を行ったが有意差は認められなかった。

甲状腺腫瘍の診療ガイドライン
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/20.html
甲状腺癌の原因物質の同定に向けた挑戦的疫学調査研究
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26670460/

データ漏の症例さらに一例
議論の途中で、東京の金地病院で名誉委員長を務める清水一雄委員が、県民健康調査の甲状腺検検査を受診せず、甲状腺がんと診断された子どもを手術したと明かした。その子どもは郡山からの避難者で、1巡目の先行検査だけは受診しているものの、2巡目と3巡目は受診していなかったという。県立医大にEメールで報告したが、県のデータに入っていないと指摘。県立医大の大津留晶教授は県の検査外であるため、公表データには含まれていないと説明した。

公表データに含まれていない症例については今年3月、当時4歳の男児の甲状腺がんがいることが分かり、「経過観察」中に甲状腺がんが見つかった場合は、データに含まれていないことが分かった。民間の支援団体「3・11甲状腺がん子ども基金」は患者へのアンケート調査によって、男児を含む少なくとも8人が県のデータに含まれていないこと公表している。「経過観察中」の患者をめぐっては、県の「甲状腺検査サポート事業」で、3人の患者が県のデータに含まれていないことを明らかにしている。

この問題について、福島県立医大は新たな研究計画を立てて、医大で施行している甲状腺がん手術症例については把握を進めているが、2011年3月に福島県内に暮らしていた子どもたち全体を悉皆に把握する取り組みは今もなされていない。福島県の甲状腺検査は国の税金を元に実施されており、2016年度の実績で、人件費を除き、年間8億円程度の費用が充てられている。しかし、医大によると、1万9000通もの検査通知書が住所不定で返送されてくる事態となっており、受診率は50%未満に低下している。一方で、甲状腺がんの手術を受けた患者には、繰り返し受診勧奨のはがきが送付されるなど、住民に寄り添った丁寧な仕組みとなっていない。

福島原発事故に伴う避難者問題に詳しいジャーナリストの吉田千亜氏は、「県民健康調査課によれば、検査の通知は県が住基ネットで調べた情報をもとに医大が発送していると言う。これでは、県内外の避難者を含め、受診対象者の情報管理はできず、転居した場合は転居者自身に申告するように呼びかけているといっても、今後、宛先不明者が増える可能性がある。「将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ること」を目的にうたっている以上、長期にわたることによる調査対象者の転居等を想定し、転居者・不明者の追跡調査について、県と医大は連携し、整備すべきだ。」と警鐘を鳴らす。


記者会見

資料:
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-29.html

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