東京電力福島第一原発事故を受けて実施されている福島県県民健康管理調査に関し、子どもの健康問題に取り組む市民らが13日、甲状腺検査などの改善を求めて申し入れを行った。
要請を行ったのは、8つの市民団体で構成されている「子どもと放射能対策の会」のメンバーら。放射線県民健康管理センターの松井史郎特命教授に対し、甲状腺検査の結果データを本人に開示するよう求める要望書を手渡した。要望書を提出するのは7月23日に続いて2回目。健康管理調査の責任者である山下俊一副学長の出席を求めていましたが実現しなかった。
検査結果の本人開示について
チェルノブイリ原発事故では、子どもたちの間で甲状腺がんが増えたことから、福島県内でも18歳以下の子どもを対象に、去年暮れから超音波による甲状腺検査が実施されている。しかし、A~Dという独自の判定結果のみが通知され、のう胞や結節が発見されても、超音波画像データやしこりなどの大きさなどは、本人がわざわざ個人情報の開示請求をしないと入手できない状況が続いている。これに対し、市民らは、通常の病院同様、超音波診断を受けたらすぐに画像を手渡して欲しいと要望。松井教授は、簡易な情報開示の方法を県と協議中であると解答した。また、通知の内容を改善すると約束。今後、住民説明会を開催し、検査結果についての説明を行っていくことを明らかにした。
甲状腺検査の内容や方法の見直しについて
現在、避難区域内の子どもと福島市の子ども、約8万人の検査が終了している。しかし、初期に大量のヨウ素が飛散したとみられるいわき市などが来年に先送りされており、県外の医療機関で個別に検診を受けている家庭も少なくない。市民からは、2年間ごとの検査では普段だとの声があがった。これに対し、松井教授は「長期にわたってずっと見てゆくことが大事だと考えている。」と強調。郡山在住の黒田節子さんが「県外でお医者さんに見せると2ヶ月ごとに経過観察をしましょうと言われる。山下教授は2年ごとで良いとしているが、この違いは何か。」と追及すると、松井教授は「健康被害がないということを前提にして調査しているのわけでなない」としたうえで、「放射線に関係あるかないかにかかわらず、「早期発見早期治療」が我々がやるべき立場だ。」と名言。福島医大の担当者として、初めて「早期発見早期治療」という言葉を口にした。
福島県民健康管理調査については、調査の目的が「健康不安の解消」とされているため、「健康被害がないことを前提にしている」との疑念を持つ県民も多く、インターネット上では「人体実験だ」「福島県民がモルモットにされる」との声も強い。事故後子どもたちの健康問題に取り組んできた青木一政さん(福島老朽原発を考える会)は初めて耳にする言葉に驚きの表情で「「早期発見早期治療」が健康管理調査の立場であるならそれをしっかり表明して確実にやってほしい。」と注文をつけた。
甲状腺がん以外の健康被害について
一方、放射能から子どもたちを守る福島ネットワークの代表佐藤幸子さんは、保護者の多くが、甲状腺がんだけでなく、免疫力の低下などその他の病気について心配していると説明。超音波だけでなく、血液検査を含む多様な検診してほしいと求めた。しかし松井教授は、福島県からの委託事業なので対応は難しいと回答。避難区域内の住民は「健康診査」という形で様々な検診を実施しているが、区域外については、県の健康管理課に要望すべき内容であるとした。
セカンドオピニオンについて
山下俊一副学長と甲状腺調査を担当している鈴木真一教授は、今年1月25日、甲状腺学会会員に対して、セカンドオピニオンや追加検診を見合わせるように求める文書を送ってる。この通知について、松井教授は「この点は、保護者やメディアからも多数問い合わせが届いている」とした上で、「福島県立医科大学としては、一貫として、セカンドオピニオンを妨げるものではない。誤解を解くための文章を、近日ウエブサイトに掲載する」と回答そた。これに対し、市民からは、医療従事者にも浸透するよう、1月に通知を送った相手には、鈴木氏、山下氏の署名入りで郵送で通知してほしいと要請した。
甲状腺がんの子どもが見つかった件について
また、先日、甲状腺がんの子どもが見つかったことに関連して、被ばく線量など、個人情報が特定されない方法で、もう少し情報を開示して欲しいとの声があがったが、松井教授は現時点で、情報の公開は難しいと返答。福島集団疎開裁判の原告団長をつとめる井上利夫さんが「チェルノブイリ事故後、翌年から甲状腺がんが微増しており「放射能とは関係ない」と言い切れないのではないか」との指摘したことに対して、松井教授は、「鈴木医師は「現段階では、放射能が関係するとはいいにくい」と言ったまでで、断定的に報道したマスコミの問題が大きい」と回答。市民側からは「これまでの積み重ねで、信頼関係を損ねている中、回復は簡単ではない」との声があがった。また青木さんが、8月末に日本疫学会で発表した山下氏の論文を紹介。健康管理調査の目的として、「(1)長期にわたり健康状態の監視、(2)将来の県民の幸福の推進、(3)長期にわたる低線量被ばくの健康への影響調査」となっているとして、山下教授がこの健康管理調査を進めていることに対して不信感がぬぐえない背景を説明した。
同意書
郵送で事前に送付する同意書も不信を募らせる背景となっている。保護者の一人は、山下教授がドイツの講演で、県民のことを「被験者」と呼んでいるとして、健康管理調査がデータをとるためのものなら、そのことを山下氏は県民の前で説明すべきたと指摘。「データをとるから「同意書」が必要になる。「同意書」は止めてほしい。」と語気を強めた。