福島第一原発事故
2011/05/17 - 16:42

上限20ミリは詳細検討せず~原発作業員の被ばく問題交渉

福島第一原発の労働者環境が問題視される中、原発内で作業をしている労働者の就労環境の改善を求め、労働団体が16日、厚生労働省と交渉を行った。交渉の中で、作業時の被ばく線量を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げる際、厚生労働省内で詳細な検討は行われなかったことなどが明らかになった。(交渉そのものは撮影不可)
 
交渉を求めていたのは、じん肺問題をはじめ、労働衛生の問題に取り組んでいる全国組織「全国労働安全衛生センター連絡会議」。福島第一原発内の被ばく労働の実態や放射線管理がどのように行われているかについて、厚生労働省の担当者から回答を求めた。
 
交渉ではまず、3月14日に電離放射線障害防止規則における緊急作業時の被ばく線量を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた経過について、厚生労働省労働基準局の中央労働衛生専門官の安井省侍郎氏が回答。250ミリに引き上げられた3月14日、厚生労働省で詳細な検討をする時間はなく、官邸からの指示されるがままに、数値が決められていたことを明らかにした。また、250ミリという数値に関しての根拠については、ICRP(国際防護委員会)の上限500ミリシーベルトという数値を参考にしているだけで、「250ミリでなければダメ」というような根拠となる数値が存在するわけではないと説明した。
 
また、労働者の日々の被ばくデータに関しては、原子力保安院が一元管理し、厚生労働省に提出されることになっているものの、事故から2ヶ月たった現在も厚生労働省は入手していない。
 
厚生労働省によると、現在の線量管理は、作業員がJビレッジを出発する際に線量計をわたされ、再びJビレッジに戻って来た際に用紙に記入して、口頭でも確認を行うという。この後、コンピュータに入力され、東京電力本店のサーバーに送られる。また、プラントに関わるメーカーや免震重要棟に長期滞在している作業員は、免震重要棟内で放射線管理を行っている
これらのデータは、政府がデータベースを構築し一元管理される計画になっているが、どのような法的な枠組みで実施するかなどについて、まだ詳細は検討されていないという。
 
一方、4月28日に、これまで年間50ミリシーベルトと設定されていた原発労働者の放射線許容量を事実上撤廃したことに関しては、経済産業省のシュミレーションをもとに決定されていたことが判明。大臣間で調整が行われ、厚労省が追認していたことがわかった。経産省がどのようなシミュレーションをしているのか、厚労省は文書で確認したり、全てを把握しているわけではないという。
これに対し、労働団体側からは、「通達が数字的な根拠なく法令を覆している。厚生労働省は、原発をを推進する側のいいなりにならず、労働者の側にたって、毅然と規制をしてほしい」と規制緩和を撤回するよう求めた。
 
なお、交渉の中で、労働基準監督官が、福島原発の作業現場に一度も立ち入り検査をしていないことも判明。「死亡者や法令違反が出ているのに、一度も立ち入りが行われていないのは信じられない。すぐに入るべき」と、怒りの声があがる場面もあった。安井専門家は、立入検査の必要性を認めた上で「通常時は、高い放射線量を浴びる作業をする場合は、事前に、作業計画を提出する必要があるが、これまでは全く行われていない。しかし、いつまでも緊急時という扱いで良いとは認識していない」として、徐々に通常の労働基準に戻していく必要があるとの考えを示した。
 
労働団体の側からは、「政府はしきりと100ミリシーベルトまでは大丈夫と言っているが、安心とは言えない。実際、労災認定は、相対リスク2倍以上のところで行われており、それは専門委員も認めているはずだ」と、政府のキャンペーンに対する批判が相次いだ。また、石綿作業をする場合は、労働者に対し、働く依前に、労災認定基準を示し、労災補償についてのブックレットを渡して説明しているとして、原発でも同様の安全教育をするべきだとの意見が出された。
 
現在、福島第一原発で働いている全労働者数は約5000人。東電社員が1000人で、下請け企業やプラント関係企業が4000人いるとされる。その労働者うち、4月27日現在で、200ミリシーベルト以上の放射線を浴びたのは2人、100ミリ以上200ミリ以下が28人だという。この他、女性労働者が2人、法定以上の放射線を浴びている。
 
なお、下請け作業員が、求人内容をきちんと説明されずに、福島第一原発で働かされている問題については、事業者間の問題であるとして回答は行われなかった。ただ、作業にどのような企業が関わっているのかについては、協力プラント会社や下請け、孫請け関係を明らかにするために、東京電力に対して組織図を提出するように求めているという。

 

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