政府が今国会に提出した特定秘密保護法案に反対し、憲法や刑事法の専門家らが、28日都内で記者会見し、「法案は、一種の軍事立法であり、基本的人権の保障、国民主権、平和主義という憲法を脅かしている」などとする声明を発表した。
記者会見を行ったのは、東京大学の奥平康弘名誉教授(憲法)や上智大学の田島泰彦教授(メディア法)ら憲法・メディア研究者と刑事法の専門家ら10人。それぞれの専門分野で声明文を作成し、これまでに計270人が賛同した。
田島教授は会見で「「特定秘密」といってもその対象が明確に限定されているわけではない」として、その範囲が無制限に広がる可能性を指摘した。また、秘密をできるだけ開示する方向に向かっている世界の潮流に対して逆行していると批判。情報開示や知る権利を侵害しようとする政府の姿勢を厳しく批判した。
市民活動の抑圧強化を警告
一方、刑事法の研究者らは、声明の中で、法案は刑事裁判における適性手続きを侵害したり、刑事法の人権保障を侵害すると警告。国民主権の原理に反し、議会制民主主義が著しく弱体化するなどとしている。
一橋大学の葛野尋之教授(刑事法)は、同法案の処罰を最優先する軍事立法的な性格について言及した上で、処罰の範囲が曖昧で不明確であると指摘。同法が施行されれば、「処罰対象の広がりは避けられない」と懸念を表明した。また、刑事法の存在自体が脅かされる危険性があるという。
また、国際基督教大学の稲正樹教授(憲法)も、「「表現の自由」や「報道の自由」に関する議論に集中しがちだが、個人やその家族の思想、生活習慣などを洗いざらいチェックする「適性検査」の不当性は看過できない」と賛同の理由を説明した。
一橋大学の山内敏弘名誉教授(憲法)は、警察に関する情報が「国家機密」の対象とされることも問題視し、「市民の生活を警察が取り締まること自体が特定秘密になり、市民生活にダイレクトに抵触する」と発言。同法案が一部の職種だけでなく、あらゆる層に関係すると指摘した。
後半
世論の高まり尻目に、成立急ぐ政府
同法案は、10月以降、急速に関心が高まっており、共同通信社が26、27両日に実施した全国電話世論調査によると、政府が今国会に提出した特定秘密保護法案に反対との回答が50・6%と半数を超えた。また慎重審議を求める意見は82・7%に達し、今国会で成立させるべきだの12・9%を大きく上回った。しかし政府・与党は、11月には審議に入りし、早急に成立させたい考えだ
一橋大学の村井敏郎名誉教授(刑法)は、同法案の報道に関して「メディアが反対の声をあげるどころか、大手新聞社内でも政治部主導の記事と社会部の記事がぶつかりあっている」と指摘。「今こそ、マスコミが同法案に対する国会議員一人ひとりの姿勢を発表するなど、『対権力』を業界全体として打ち出して欲しい」とマスコミへ奮起を促した。
これまでも、同法案に類似した法案が持ち上がり、85年に『国家秘密(スパイ防止)法案』が国会に提出たが、市民やメディアからの強い反発で廃案となっている。
関連資料
秘密保護法の制定に反対する憲法・メディア法研究者の声明
http://www.ourplanet-tv.org/files/131029kenpou.pdf
秘密保護法の制定に反対する刑事法研究者の声明
http://www.ourplanet-tv.org/files/131029keiji.pdf