国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」や国際環境NGO「FoE Japan」など国内の63団体は24日、国連科学委員会(UNSCEAR)が明日、国連総会に提出する「福島調査報告」について、抜本的な見直しを求める緊急声明を発表した。福島原発事故の健康影響について、子どもの甲状腺がん以外はないとする同報告書について、客観性や独立性が乏しく、被曝を過小評価していると指摘。内容を見直すように求めている。
問題となっているのは、明日25日に国連の第4委員会に提出される国連科学委員会の「福島報告書」。同報告書は、福島県の成人の平均生涯実効被曝線量を10ミリシーベルト以下と推定。乳幼児の甲状腺がんは増加すると言及しているものの、「被ばくした一般市民やその子孫において、放射線由来の健康影響の発症の識別し得る増加は予期されない。」と結論づけている。
<付属文書>成人の推定実効線量(事故後1年間)福島県避難区域外および近県
<付属文書>1歳幼児の平均実効線量(事故後1年間)福島県避難区域外および近県
<付属文書>推定実効線量福島市在住者(2011年に成人、10歳子ども、1歳幼児)
これに対し、声明では、国連科学委員会は、原発事故後、独自の調査を実施しておらず、
日本政府や福島県から提供されたデータのみに基づいていると批判。中立性や生活性に疑問があるとしている。
また、低線量被曝については、放射線影響調査研究所による広島・長崎の原爆被害者のLSS(
寿命調査)報告(2012年)をはじめ、ここ数年、新たな論文が次々に発表されているが、こうした最近の疫学研究を踏まえていないと指摘している。
ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子さんは、記者会見で「安易に健康影響を過小評価している」と。また、FoEジャパン理事の満田夏花さんは「報告書がドラフトの段階で、一度も一般公開されず、被災当事者や市民、第三者の専門家によるパブリック・レビューを得ていないことのは、大きな問題」と指摘。科学というものは、第三者が検証できてはじめて科学と言えるが、この報告書は、第三者の検証ができない、極めて非科学的なもの」と断じた。
また、昨年11月に福島原発事故後の人権状況について現地調査をした国連「健康に対する権利」に関する特別報告者のアナンド・グローバー氏が、今年5月に国連人権理事会に調査報告書を提出した報告書に言及。グローバー氏は、日本政府に対し、年間1ミリシーベルトという明確な基準を示して、健康管理調査や支援措置などの政策改善を勧告しているが、満田さんは「国連総会の議論にも、グローバー氏の勧告が十分に反映されるべき」と強調した。
国連科学委員会の「福島報告」は、国連総会第4委員会での審議を経て、通常ならば、12月に国連総会で採択される。ただ、汚染水問題や原発作業員の被ばく線量など、報告書のもととなるデータを網羅した付属文書がまだまとまっていないため、見通しは未知数だ。
ヒューマンライツウオッチらは、このあと、日本時間22時30分から、国連総会が開催されるニューヨークでサイドイベントを開催し、その場で、アナンド・グローバー氏が同報告書にコメントをする見込み。
【共同声明】日本の市民社会は、国連科学委員会の福島報告の見直しを求める。
http://hrn.or.jp/activity/topic/post-235/
国連科学委員会が25日に国連総会に提出する「福島報告書」
Report of UNSCEAR to the 68th General Assembly: To be presented in New York on 25 October 2013
http://www.un.org/Docs/journal/asp/ws.asp?m=A/68/46
LSS(寿命調査)第14報(放射線影響研究所)英文
http://www.rerf.or.jp/library/rr_e/rr1104.pdf
LSS(寿命調査)第14報(放射線影響研究所)和文訳
http://www.ourplanet-tv.org/files/RADIATION RESEARCH 177.pdf