20歳のさやかの言葉の一つ一つが、私の胸に突き刺さった。打ちのめされた。どこにでもあるような、幸せな家庭。ある時、「明るく優しい子」だったさやかが、牙を向いて襲いかかって来る。
「死にたい」を連発し、泣きじゃくり、自身と家族の“恥部”をさらけ出す。撮影と編集は、血を吐くような作業だったに違いない。
写真の中の5歳のさやかちゃんの笑顔が、もうすぐ5歳になる我が子とダブって見えた。あどけない笑顔の陰で、そんなに苦しんでいたなんて。眠れない夜が続いていたなんて。わかってあげられなくてごめんね。ダメなママだね。涙が止まらなかった。でも、あなたのことが本当に大切なんだよ。どう言えば、伝わるのだろう・・・。
子育ては迷いの連続。家族はもともと、他人と他人の結びつきから始まる。誰もが不完全な人間だ。だから、壊れるのは簡単。でも、だからこそ、分かり合う努力はできるし、再生も可能なはず。
記憶をたどる旅の過程で、少しずつ、さやかの表情が柔らかくなっていく。そして、同様に傷を抱えた同級生の一人に、優しく励ましの声をかける。その目は穏やかだった。映画製作から5年。スクリーンの前に立ち、挨拶をする小野さやか監督の姿は、堂々として美しかった。家に帰ったら、何も言わずに、我が子をしっかり抱きしめようと思った。
【試写・宮原理恵(OurPlanet-TV正会員)】
公式サイト
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