福島第一原発事故
2020/07/30 - 23:09

不透明な「宮崎早野論文」撤回~宮崎氏は博士号取り消し

福島県立医科大学の宮崎真講師と東京大学の早野龍五名誉教授が、福島県伊達市住民の被曝データを使って執筆した2つの論文について、英国の学術雑誌「Journal of Radiological Protection(以下 JRP誌)」が7月28日付けで撤回を公表した。

撤回されたのは、宮崎氏と早野氏が2016年と2017年に投稿した2つの論文。前者は、東京電力福島原発事故後、政府が使用してきた空間線量率をもとにした実効線量推計は、個人線量による計測より4倍過大であると結論付けた論文(第1論文)で、後者は、住民の生涯被曝線量を解析したところ、年間20ミリシーベルト前後の線量があった住民でも70年間でわずか18ミリシーベルトに過ぎないと推計。また同地域について、除染の効果はなかったと結論づけている。(第2論文)

JRP誌は、「倫理的に不適切なデータが使用された。」として論文の撤回を決定。著者が撤回に同意したとしている。また結論を出すに当たり、伊達市が設置していた第三者委員会「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」が今年3月17日にとりまとめた報告書で、同意のないデータが使用されていたことが確認されたためとしている。

論文と撤回に関するJPRのコメント
第1論文「Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys」

第2論文「Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose」

伊達市の「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」報告書
https://www.city.fukushima-date.lg.jp/soshiki/3/39948.html

宮崎氏の博士号は取り消し
この論文で博士号を取得していた宮崎氏は、「私としては、研究者として委託された内容を完遂すること、すなわちデータの再提供を受け論文の修正もしくは再投稿を行うことが責務と考えておりましたが、論文の撤回と研究委託の中止かつデータ再提供が不可能という状況に至りました。責務を果たせず論文の撤回となったこと、また今後本研究に関わることがこれ以上能わなくなったことを、極めて遺憾に思っております」などと福島医大を通じてメールで回答。共著者の早野氏は「共著者としては、論文の撤回について大変残念に思っております」とメールでコメントした。

また福島医大は、宮崎氏の学位論文撤回が決定されたことの報告と学位取り消しの申し出があったため、今月15日に審査を実施。博士号の学位取消しを承認したことを明らかにした。

宮崎氏のコメント(全文)

「学術雑誌 Journal of Radiological Protection(以下 JRP 誌)に掲載された私、宮崎を筆頭筆者とする 2 本の論文については、かねてから不同意の方のデータが含まれている可能性についてJRP 誌上で倫理的懸念が指摘されておりましたが、伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会の報告書にて、伊達市が外部被ばくデータに不同意者等が含まれていることを確認せず、また、不同意者等のデータを削除しないまま、外部被ばくデータを研究者(宮崎)に提供したと結論付けられました。さらに、伊達市から本学および私に向けて、研究委託の中止とデータ再提供が不可能である旨も通知されたため、JRP誌に倫理的懸念は解消されず論文を撤回せざるを得ない、との意向を伝え、最終的に論文の撤回が決定されました。それに伴い、第一論文にて取得した学位についても、当学大学院医学研究科委員会に取り消しを依頼し、その承認を受けました。

私としては、研究者として委託された内容を完遂すること、すなわちデータの再提供を受け論文の修正もしくは再投稿を行うことが責務と考えておりましたが、論文の撤回と研究委託の中止かつデータ再提供が不可能という状況に至りました。責務を果たせず論文の撤回となったこと、また今後本研究に関わることがこれ以上能わなくなったことを、極めて遺憾に思っております。」

不可解な撤回手続き
JRP誌は第一論文の撤回コメントの中で、表1にある2014年第3期(10月~12月)の検査人数が誤っていると記載している。この過りは過去に公になっておらず、OurPlanetTVが今年2月に報じた際には、宮崎氏も早野氏もコメントを避けていた。

実測数より多いデータ解析〜宮崎早野論文に新疑惑
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2470

OurPlanetTVは7月30日、JRP誌に対して、この事実をいつ、どのような経緯を通じて把握したのかを尋ねたが現在までに回答は得ていない。また宮崎氏と早野氏にも、この期間のデータをいつ受け取ったのか質問したが、早野氏は宮崎氏から受け取っているので、自分は把握していないと回答。一方、宮崎氏からは回答がない。

「第1論文」表1の2014年Q3に2万1,080人は、伊達市が「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」に提供した資料によると、14,372人だった。

伊達市が「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」に提供した資料(伊達市民が情報公開によって入手)

論文で解析されている2万1,080人は、2013年7月から14年3月に年間を通じて検査を実施した対象者と同じ人数(下記の表①)であることや、伊達市が2014年のQ3期間にあたる10月から12月のデータを宮崎氏らに渡した記録がないことから、データを捏造している疑いが生じている。

なお伊達市が「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」に提供した資料によると、同時期の対象者は1,4372だが、今回の撤回コメントでは、12,011と記載。2015年7月から16年6月の間、継続して個人線量を計測した住民の人数)下記表の②)が誤って記載されている。


「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」の報告書P19

宮崎氏と早野氏の論文について2018年8月に第2論文の問題点を指摘する批判論文をJRP誌に投稿した黒川眞一高エネルギー加速器研究機構名誉教授は、その後 5人の研究者との共著でさらに3本の批判論文を今年2月と3月に投稿したことを明かした上で、これらの批判論文が受理されておりながら、論文そのものと、批判に対する宮崎氏と早野氏の回答がJRP誌の掲載されないのは極めて異例と問題視した上で、次のように述べた。

「最初の批判論文について2018年11月には編集部が著者に回答するようにと要求したのにかかわらず今回論文が撤回されるまでのほぼ2年間、著者たちは回答を回避してきたこと、そして今年の4月初めまでにJRP誌の編集部が著者に回答を求めた3本の批判論文に対しても、著者たちは回答しなかった。」

「論文撤回は通常では考えられないプロセスを経ており、政治的な意図があるのではないかと疑われれる。私たちは、式の間違い、論文内の不整合、データや図の捏造や改竄の疑いなど数十点について指摘してきた。通常なら、論文撤回前か撤回時に、これらの批判論文と著者の回答が掲載されなければならないが、一
切なされていない。編集部による撤回コメントに記載されている2014年3Q の対象者数の誤りは、私たちが批判論文で指摘した中の一部のみを勝手に盗用していると見られる。大変遺憾に思う。」

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