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ニコニコ発言「緊張解くため」〜山下俊一氏が9年前の発言釈明

投稿者: ourplanet 投稿日時: 金, 03/06/2020 - 06:48


 

東京電力福島第一発電所事故後、福島の放射線管理リスクアドバイザーに就任し、県内各地で講演を行なった山下俊一長崎大学副学長が4日、福島地方裁判所の証言台に立った。「ニコニコしている人には放射能は来ない」という有名な発言について。山下氏は「緊張を解くためだった」と釈明した。

山下氏の証人尋問が行われたのは、通称「子ども脱被曝裁判」。原発事故直後に適切な情報提供がなされず、ヨウ素剤も配布されなかったとして、子どもたちに無用な被曝をさせた責任を求め、福島県の住民らが国や福島県などを訴えたもの。原告らは2年以上前から、「安全キャンペーン」を進めた県の立場を象徴する専門家として、証人として山下氏の招致を求めていた。


福島地方裁判所前に集う支援者(2020年3月4日)

この日の裁判所は冷たい雨の日。しかし、山下氏の姿を一目見ようという市民らが詰めかけ、100人を超える人が傍聴券を求めて抽選の列に並んだ。一方、地元メディアで取材席に入ったのはわずか1社だけだった。

1時半から5時まで3時間半にわたる証人尋問。法廷に登場した山下氏は、グレーのスーツ姿に身を包み、宣誓後、やや肩を丸めて証言台に腰を下ろした。被告・県からの主尋問ではまず、スライドを使って、「リスクコミュニケーション」に関するプレゼンから始まった。リスクコミュニケーションには、「クライシスコミュニケーション」と「ポストクライシスコミュニケーション」があり、山下氏は放射性災害の専門家として、その両方に対応する必要があったと強調した。

「ニコニコする人には放射能は来ない。クヨクヨしていると放射能が来る。これは明確な動物実験でわかっています」 2011年3月21日 福島テルサ


この「ニコニコ発言」についても、「会場が過度に緊張していたため、緊張を解くために言った」と釈明。また「100ミリシーベルト」をめぐる発言については、「100ミリシーベルト以下でも、発がんリスクはよく分かっていない」と、事故当時の発言とは異なる見解を述べた。

第50回日本甲状腺外科学会市民公開講座で座長を務める山下俊一氏(2017年10月、福島市)撮影:和田真

ニコニコ発言「緊張解くため」
山下氏が福島入りした直後の2011年3月21日、福島市にある福島テルサで、500人近い聴衆の前で発言した「ニコニコ発言」。原告側の証人尋問ではこの問題が真っ先に俎上にのぼった。山下氏が主尋問で「緊張を解くために言った」と述べたことについて、原告側の証人尋問は弁護団長の井戸謙一弁護が怒りをあらわにし、「ユーモアで言ったという趣旨か」と追及した。

山下氏が「緊張を解くためだった」と繰り返すと、井戸弁護士は「真剣に放射能について心配した住人に対して、「クヨクヨしていると放射能が来る」という言い方は、「証人に脅迫されている、あるいは愚弄されているという風に受け止めると考えられなかったのか」と強い口調で批判。山下氏は「不快にさせた方にはまことに申しわけないと思います。」と謝罪に追い込まれた。


法廷でも上映された事故後の山下氏の発言(抜粋)

事故当時の発言、修正つぎつぎと
また「100ミリシーベルト」発言をめぐっても、井戸弁護士が質問。福島県内の講演をもとにまとめた書籍『正しく怖がる放射能の話―100の疑問』に、「合計で100ミリシーベルトになったとしても、修復できない傷は全く残りません」と記載されていると指摘。「100ミリシーベルト以下でも、発がんリスクはよく分かっていない」とする主尋問への答弁と矛盾するのではと尋ねると、山下氏は「厳密には、矛盾点があると思う。」と誤りを認めた。

また「1年100ミリシーベルトを浴びても、がんのリスクはない」と説明していたことについて、「毎年100ミリシーベルトの被曝を10年、20年受け続けても、がんのリスクはないという趣旨か」と追及。山下氏は、「最高1年間で100ミリシーベルトという意味だ」と回答し、1年限りの話であることを明らかにした。また、事故当時、徐々に被曝して、累積100ミリとなった場合には「健康が影響ない」と述べていたことについても、「非常事態、緊急事態でのリスクコミュニケーション」だったと自身の誤りを認め、「(影響は)ゼロとは言えない」と述べた。


5月3日の二本松での講演会の様子

「リスコミ」を名目に「正しい知識」省いた?
田辺保雄弁護士は、そのリスク・コミュニケーションのあり方に焦点を当てた。山下氏のスライドの「国際的な科学コミュニティ」の項目に、「米国科学アカデミー審議会「電離放射線の生物学的影響に関する委員会(BEIR委員会)」が記載されていることに触れ、同委員会の「低レベル放射線に関する報告書」を知っているかと質問。山下氏が「はい」と答えると、同報告書には、100ミリシーベルト以下の低線量被曝でも、放射線量とがんリスクの間に関係がある可能性が高いとの記載があることを指摘。「こうした「正しい知識」を省いたのか」と追及した。

これに対し、山下氏は「単純明快な説明をした」と反論。「意図的に省いたことはない」と弁明した。しかし田辺弁護士は「単純明快にするために省いたというのであれば意図的だ」と批判。「単純明快にしたいというご意図があったのですよね。」「そのために一部の説明を省略したということですね。」と畳み掛けると「100ミリシーベルトという意味ではそうです。」と小さく答えた。


裁判終了後の集会で尋問を振り返る弁護団

原発事故時の被曝に「リスク・ベネフィット」論
井戸弁護士はこのほか、山下氏が場所によって異なる発言を重ねてきたことを次々と指摘。2013年3月13日付け読売新聞長崎版で、「10ミリシーベルト以上浴びないと、人体にはほとんど影響はない」と述べる一方で、同時期に、年間10ミリシーベルトよりはるかに高い毎時10マイクロシーベルト以上あった福島市で、「子どもは外でどんどん遊んでいいと、マスクをやめましょうとまで言ってた。」と厳しく批判。「故意に子どもを被曝させる意図だったのか。」と質した。

これに対し、山下氏は「そうした意図はなかった」と否定。「子どもを、部屋の中に押し込めて制限するということに対して、外に出しても大丈夫だという話をした」と述べた。井戸弁護士は「10マイクロぐらいであれば、外に出して被曝させてもいいという考えか。」と重ねて追及。「過剰に被曝させることはできないと思った。」と山下氏が直接的な回答を避けると、「10マイクロシーベルトの中で遊ばせることは、過剰な被曝に当たらないのか」と見解を求めた。山下氏はこれに対し、「リスク・ベネフィットのバランスを考えて、という風に考えていました。」と回答。原発事故時の子どもの被曝に、「メリット」があるとする見解に、傍聴席は一瞬ざわついた。


山下俊一氏の発言の矛盾を次々に突いた井戸謙一弁護士

「毎時100マイクロ」発言はミスか?意図的か?
尋問の中でもっとも白熱したのは、山下氏がやはり3月21日の福島テルサの講演会で述べた、「毎時100マイクロシーベルトを超さなければ、全く健康には影響を及びしません。」との発言をめぐるやり取りだった。

主尋問で、「100マイクロ」の発言は「間違えだった」とする山下氏について、井戸弁護士はのっけから「うっかりと誤ったのか。意図的に誤ったのか。」と厳しく迫った。山下氏は「これを気づいたのは1ヶ月後。外部の人から指摘されましたので、こういう言い方をしていたとは知りませんでした。」と直接の回答を避けた。


福島県の3月21日の講演会のページ。「毎時100マイクロシーベルトまで健康影響はない」の述べていた。

しかし井戸弁護士は、講演の開催された当時、福島市の放射線量は10マイクロシーベルト前後だったと指摘。「避難指示が出ていない地域の人たちを避難させず、安心させるためには、「10マイクロを超えなければ全く健康に影響を及ぼしません」と言ったのでは目的を達することができない。敢えて100マイクロと言ったのでないか」と質した。

山下氏が「全くの見当違いだ」と憤慨すると、井戸弁護士は4月1日に飯舘村で開催された講和の記録を取り出し、「38マイクロシーベルトもあるが大丈夫なのか」と心配する質問者に対する山下氏の回答を読み上げた。

「マイクロシーベルトのレベルであれば全く問題ではない。10マイクロシーベルトまで下がればより安心である」


「そういう話をしたご記憶はありますか。」井戸弁護士が尋ねると、山下氏は「この文書が真実かわからない」「記憶にない」の一点張り。「10マイクロシーベルトを超える中で、住民に危険とか、避難するように伝えたか」との質問には、「避難の話はしていないと思います。」と認めた。

4月の講和後、飯舘村に避難指示が出たことについて山下氏は、飯舘村の方に放射性プルームが入ったというのは知っていたが、「避難指示」は政府がやることで、自分が口にする立場ではなかったと反論。「年間100ミリシーベルトを参考レベルと考えていたので、その下でいろいろな対応がなされていると考えていました。」として、科学的な判断より、政府の決定に沿って、「単純化したメッセージ」を発していたことを明らかにした。


甲状腺がんについて質問した柳原弁護士(右)、光前弁護士(中)、井戸弁護団長(左)

甲状腺がんは「多発ではない」「スクリーニング効果」
法廷ではこのほか、安定ヨウ素の服用については、甲状腺検査などについても、尋問が行われた。甲状腺がんが多数、見つかっていることについては、柳原敏夫弁護士が質問にたった。柳腹弁護士は、山下氏が、甲状腺がんの発生原因として川内村の水道水の硝酸濃度を調査した研究について質問。「甲状腺がんが増えている原因を突き止めたいという理由で、この研究を申請したのか」と質問したところ、山下氏はベラルーシで先行研究があったからだと否定した。

甲状腺癌の原因物質の同定に向けた挑戦的疫学調査研究
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26670460/


また川内村の水道水と甲状腺がんの発生には有意な関係性は認められなかったことから、「甲状腺がんの増加が被曝影響であるとの可能性は否定できないので。」との質問に対して、山下氏は「いえ。そうは思いません。小児甲状腺がんは「多発」ではありません。超音波検査をしたために、それまで見つからなかったがんを多く見つけるスクリーニング効果であるということを、我々は当初から予想していましたし、主張しています。」と強調した。

一方、多くの手術に当たっている福島県立医科大学の鈴木眞一教授の手術については、「彼の論文を見ると、きちんと基準に照らしている。「過剰診断」とはなかなか言いづらい」と、過剰診断ではないとの見方を示した。


裁判終了後の報告集会

腹水盆に返らず
事故後の福島の状況が「パニックに近い、きわめて不安定な状態だった。」として、簡潔なメッセージが必要だと繰り返した山下氏。「水道水の水にはセシウムはゼロ」「内部被曝は空間線量の100分の1」などと話したことの全てが、科学的な知見とはかけ離れていた3時間の証人尋問で次々に明かされた。

裁判の最後、国の代理人が山下氏に対し、事故直後のクライシス期に福島に入って、一番何を伝えたかったことは何かと尋ねると、山下氏はこう答えた。

「長崎の原爆被爆者あるいはチェルノブイリ事故の被災者に接し、その経験をここに活かすとことを運命的だと感じた。大変な困難な中で活動することを、私自身は嫌だとも思いませんでしたし、ある意味、使命だと思って活動した。」さらに、「福島県民に一番伝えたかった事は『覆水盆に返らず』」と述べ、復興には国民の自己決定が重要だと結んだ。

裁判は午後5時前に閉廷した。山下氏はマスコミの目を逃れて退庁。門の脇に並ぶメディアはカメラに収めることはできなかった。裁判は7月28日に結審を迎え、年度内に判決が言い渡される。



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子ども被曝裁判
http://datsuhibaku.blogspot.com/
子ども被曝裁判弁護団
http://fukusima-sokaisaiban.blogspot.com/


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