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国際放射線防護委員会(ICRP)が、大規模原発事故時の新たな勧告案を公表し、パブリックコメントを募集していることを受け、環境団体など7団体が2日、勧告案を起草した委員の一人、甲斐倫明大分看護大学教授を招き、学習会を開催した。参加者からは、新たな基準値に関する質問が相次ぎ、福島原発事故の実態が反映されていないのではないかとの意見が相次いだ。
「大規模原子力事故時の人と環境の放射線防護」(草案)
「Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident」
放射線だけが私たちの敵ではない
学習会ではまず甲斐氏が新たな勧告案について解説したのち、主催者が事前に集約していた質問について回答した。従来「100〜20ミリシーベルト」とされていた緊急時被曝状況の参考レベルが、「100ミリを超えるべきではない」と変更された理由について甲斐氏は、100ミリに達しないような小規模の事故もあるとした上で、「事故の規模に応じた参考レベルを決めればいいので、下限値を設けるべきではない」と説明した。
一方、従来「1〜20ミリシーベルト」とされていた「回復期」の参考レベルを、「10ミリを超える必要はない」と変えた理由については、「復旧期の目標値が20ミリという高い数値だと、回復へのモチベーションが下がってしまう。逆に、最初から1ミリだと、参考レベルを超える人が膨大になるため、優先順位が決められないと」として、10ミリを選んだと回答。しかし、10という数字に科学的な根拠はないと説明した。
勧告案の結論に示されている表 また、長期的な目標として「the order of 1mSv」と記載されていることについて、「英語のorderにはおよそという意味合いがある。」と解説し、「1〜9ミリというじゃない。」と否定。「10ミリシーベルト徐々に線量を下げることによって1ミリに下げることを言っている。」と反論したが、「こちらで言ってるようには読めないというのであれば変えていく」と述べた。
甲斐氏が繰り返し述べたのが、「放射線だけが私たちの敵ではない」という言葉。原発事故の影響は、放射線による影響より、社会経済的な影響や精神的な影響が大きいことを強調した。
放射線審議会の委員とICRP両立するのか。
後半は会場の参加者と質疑が行われた。勧告をする側であるICRPの委員と、勧告を受け入れるかを判断する放射線審議会の委員が両立するのかとの質問について、甲斐氏は「専門家が手薄なのでこうなっている」と釈明。もし利益相反であるあらば、片方の一つの委員をやめるしかないのか。他に方法があるのか逆に問いかけた。
このほか、チェルノブイリと福島の避難基準の違いや、避難区域政府の不備に踏み込まなかったのかなど、線量基準に関する質問が相次いだが、甲斐氏は「ICRPは、具体的な政策にまでは踏み込まないことにしている」と回答。付属書は、あくまでもタイムラインを示しているだけで、各国の対応を評価したものではないと強調でした。
主催者団体は、多くの市民が、勧告案に対するパブコメを送れるように、勉強会を企画している。
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