福島第一原発事故
2019/05/23 - 22:44

規制庁が早野氏へご意向メール〜放射線審議会報告書の採用めぐり

伊達市住民の被曝データを本人の同意なく論文に使っていた「宮崎早野論文問題」をめぐり、放射線審議会の事務局が、著者の早野龍五東京大学名誉教授にメールを送り、報告書掲載の可否について意向を確認していたことがわかった。同論文は、審議会が今年1月に取りまとめた報告書に盛り込まれる予定だったが、最終的に削除された。

「大町さま 伴委員が、個人情報の不適切な扱いというデータの信ぴょう性とは別の理由で宮崎早野論文を審議会の1Fフォローアップ対応の報告から削除するのは惜しいと。」

放射線防護企画課長の佐藤暁氏は昨年12月19日、原子力規制委員会の伴信彦委員が、「宮崎早野論文」を審議会の「報告書から削除するのは惜しい」と訴えているとのメールを、同課の大町康氏送った。「早野さんのご意向を確認しないといけません。」と焦りを滲ませている。

宮崎早野論文

文中にある「宮崎早野論文」とは、2016年12月に、科学雑誌「Journal of Radiological Protection(JRP)に掲載された早野龍五東京大学名誉教授と宮崎真福島県立医科大学講師による共著論文 を指す。同論文は、伊達市住民約6万人の外部被曝線量を解析した3つの論文シリーズの第一弾にあたり、個人線量計で計測した外部被曝線量と航空機モニタリングによる空間線量とを比較すると、空間線量をもとにした被曝線量推計は、個人線量計による実測値より約4倍過大であると結論づけている。

同論文は、「0.23マイクロシーベルトは数字の一人歩き」だとして、福島原発事故後の線量基準見直しを検討してきた放射線審議会の報告書(※)に盛り込まれる予定だった。しかし昨年12月、同研究が同意していない住民のデータを利用していたことなどが判明し、1月25日に公表された最終版からは削除された。メールはその経緯を示すものだ。

宮崎早野論文

佐藤氏からメールを受け取った大町氏は、「【お伺い】空間線量率と実効線量の関係に関する宮崎・早野論文の修正の進め方」と題したメールを送付。20日の時点で、早野氏が論文の修正を示唆していることを報道していたのはOurPlanetTVだけだが、この段階ですでに、修正を前提に意向を確認していた。

同論文の第一著者は、福島県立医科大学の宮崎真氏である。にも関わらず、意向を気にしているのは早野氏のみ。同メールからは、昨年6月に助言を求めた際も、やはり宮崎氏ではなく早野氏を頼りにしていたとみられる。佐藤課長自らが早野氏を訪問し、問題解決をはかろうとしていたようだが、結局、直接面会することはなかったという。

宮崎早野論文

というのも、早野氏は、「ややこしいことになった」「ご迷惑かける」と返答。福島県立医科大学広報室の日野優子氏らに一任していると返信したためだ。ここに登場する日野氏とは、原発事故後、広報のプロとして日経広告から福島医大の広報に転身したキャリアの持ち主で、当初は、放射線医学県民健康管理センターの広報として「県民健康調査」の対応に従事していたが、現在は、企画広報戦略本部で大学全般の広報を担っている。

宮崎早野論文

佐藤氏によると、この後、日野氏から電話が入り、著者からの申し出によって論文掲載は見合わせたという。

「個人情報の不適切な扱い」を理由とした削除について「惜しい」と話していた伴信彦原子力規制委員。OurPlaneTVに対し、「2018年12月中旬の報道により、宮崎・早野論文の解析対象に、同意の得られていないデータが含まれていたことを知った。空間線量と個人線量の関係を数万人規模で解析した査読ありの学術論文は他になく、貴重な情報である一方、研究倫理上の問題は看過されてはならないという認識を、個人的見解として述べたもの。」と釈明している。

目的も経緯も不透明な文献調査
一連のメールは、放射線審議会で審議された「東電福島第一原発事故に関連して策定された放射線防護の基準のフォローアップ」に関して、「空間線量率と実効線量の関係に関する行政資料及び学術論文の整理」を行うに当たって行った文献調査や「宮崎早野論文」削除の経緯を把握しようと、OurPlanetTVが行なった公文書開示請求により入手した。

しかし、肝心の文献調査に関するメールは存在せず、一切開示されなかった。また、1月25日の放射線審議会では、早野氏が今年1月8日に公表した「伊達市民の外部被ばく線量に関する論文について」と題する見解をもとに、同論文の削除に至ったと説明していたが、「見解」自体も「不存在だった。担当者は、「ウェブ上で、当該文書を閲覧した記憶はある」としている。さらに、大町氏にメールにある、2018年6月の早野氏の助言に関わる資料も「不存在」だという。

※「東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線障害防止に係る技術的基準の策定の考え方について
http://www.nsr.go.jp/data/000259696.pdf

同調査は2016年の検討当初は、福島原発事故の様々な基準を検証するとしていた。しかし2018年1月、更田原子力規制委員長が、空間線量をもとにした被曝線量の目安は、個人線量計の実測値に基づけば「4倍程度、保守的」などと指摘。その後、空間線量と個人線量との関係と食品の基準の2つに焦点を絞り、今年1月に報告書が提出している。同報告書は、放射線審議会が機能強化した2016年の法改正後、他省庁の大臣の諮問なし、独自に見解を提出した初の報告書となる。

http://www.nsr.go.jp/data/000259696.pdf

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