福島第一原発事故
2019/02/21 - 12:44

甲状腺検査は「益」か「害」か〜同意書をめぐり平行線

原発事故当時18歳以下だった子どもを対象に行われている福島県の甲状腺検査をめぐり、検査結果を評価する「甲状腺評価部会」の第12回会合が、2月22日福島県で開かれた。会合では、検査の同意書などについて検討したが、検査のデメリットを主張する専門家と、住民に不安に応えるべきだとする専門家で意見が分かれ、議論は平行線のまま終了した。親会議である「検討委員会」に報告した上で、次回以降、部会長が、同意書の方向性を打ち出す。

会合では、まず、検査を実施している福島県立医科大学が、2巡目で2次検査を受けた子どもの年度別や地域別の腫瘍径や穿刺細胞診の実施率を報告した。さらに、国連科学委員会(UNSCEAR)が、2013年報告書で公表した市町村別の甲状腺吸収線量推計データをもとに、自治体を線量ごとに分けたグループを作り、甲状腺がんの数との関係を解析。事故時6~14歳と15歳以上にわけて、それぞれ被曝線量とがんの発見率を分析した結果、線量に従って発見率が上昇する「線量効果関係」は見られなかったと結論づけた。

一方で、部会長の鈴木元国際医療福祉大クリニック院長は、甲状腺検査以外で見つかっているがんのデータなどが含まれていないと指摘。原発事故との因果関係について結論付ける段階ではないとして、さらに詳細な分析が必要との考えを示した。

同意書の方針は固まらず〜今後の検査をめぐり平行線
後半は、今後の検査のあり方について議論が行われた。住民の不安に応えるために開始された甲状腺検査。これまでは、検査の目的として、「子どもたちの健康を長期に見守る」「現時点での甲状腺の状態を把握する」の2つが掲げられてきたが、祖父江友孝大阪大学教授はこれに反発。「本検査は甲状腺にかかわる健康影響を最小限にすることと放射線と甲状腺がんとの関連を正しく評価することを目的としています。」とすべきだと主張した。

また、同意書の記載内容について、祖父江教授と高野徹大阪大学講師が、「早期発見早期治療にはメリットはない」「不安の解消になるというエビデンスはない」「検査をすることは推奨されないという国際がん研究機関(IARC)の提言を盛り込むべきだ」などと繰り返す一方、南谷幹史帝京大学ちば総合医療センター教授や吉田明神奈川県予防医学協会婦人検診部部長ら、甲状腺外科の専門医らが強く反発。「小児甲状腺がんは、甲状腺がん全体の1〜2%。手術した症例の死亡率が低いからといって、手術せずに経過観察できるかどうかは分からない。IARCはエビデンスレベルで低い。」と、小児甲状腺がんの知見が不足していることを強調した。

さらに、高野氏が「小児甲状腺がんがアグレッシブであり、予後が悪いというのは誤解。隈病院のデータでは、30代以降で腫瘍の成長は止まっている。大人の甲状腺がんと一緒に考えると、判断ミスを起こす」と力説すると、南谷氏は、「甲状腺がんは死亡率はもともと低い。小児にとって、死ぬか生きるかを論点にするのは、小児科医として許せない。どういった学校生活を送れるのかがポイント。」と反論した。

「議論が平行線のまま着地点がない。」と困り果てた鈴木部会長。福島医大に同意書のたたき台を作成するよう投げたものの、安村誠司同大副学長は、「部会長の話聞いて、理解しようとしたが、私たちがどういう方向でまとめていいのかわからない。」とこれを拒否。素案作りは部会長に一任されることとなった。

記者会見

配布資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-b12.html

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