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研究申請前に解析結果を公表〜伊達市の被ばくデータ

投稿者: ourplanet 投稿日時: 月, 12/10/2018 - 13:52


 
福島原発事故後、ツイッターによる積極的な発信で名を知られる物理学者で、放射線影響研究所評議員も務める東京大学の早野龍五名誉教授が、倫理委員会の承認を受けないまま、伊達市民の被ばく線量データを解析し、ICRP(国際防護委員会)の会合で発表していたことがわかった。同研究は、毎時0・23マイクロシーベルトという除染目標を緩和する根拠の一つ。政府は、帰還困難区域の避難指示解除にあたり、被ばく防護策の中心に「個人線量」による被ばく管理を据えるが、これも同研究が影響している。同研究をめぐっては、伊達市による不正な情報提供が疑われているが、国の被曝防護政策の転換に根拠を与えている研究で、新たな問題が発覚した格好だ。
 
研究計画ないまま伊達市住民6万人をデータ解析
早野氏が、伊達市民の解析データを発表したのは2015年9月13日に伊達市で開催された第12回ICRPダイアログだ。、早野氏はガラスバッジによる個人線量測定の時間による変化のグラフを示し、高線量の地域では一定の除染効果がある一方、低線量の地域では除染効果がないとする解析結果を披露した。
 

早野教授(当時)が2015年9月に伊達市の解析データを披露する様子 Ethos Fukushima公式動画
 
さらに住民の生涯の被曝線量推計値も紹介。事故後に毎時3・5マイクロシーベルトを超えたような地域に70年間住み続けた場合でも、追加の被曝線量は平均7ミリシーベルトに過ぎず、住民の99%は14ミリシーベルトの範囲内に収まると解説した。
 
早野氏は、「伊達市はすごいんですよね。こういうデータがある」と伊達市の実測データを絶賛。しかし実際には、厚生労働省と文部科学省が定めた「人を対象とする医学系研究の倫理指針」で定められている手続きを踏まず、これらのデータを研究に利用したいた。国が策定した倫理指針によれば、医学系の研究を開始する前には、必ず研究計画書を倫理委員会で承認を受ける必要がある。
 
研究申請書審査結果通知書
(左)2015年11月2日付け研究許可申請書 (右)2015年11月27日付け審査結果通知書
申請結果通知書研究計画書
(左)2015年12月17日付け申請結果通知書 (右)研究計画書(クリックすると全ての文書をダウンロードできます)
 
同研究の研究計画書が福島県立医科大学の倫理委員会に提出されたのは同年11月。その後、早野氏と福島医大の宮崎真氏が2016年と17年にわたり、伊達市民6万人の個人線量データをもとにした論文を専門雑誌に投稿している。同研究をめぐっては、 研究でデータが使われることに同意していない市民についても利用していることが明らかになったばかり。
 
個人線量データの不正提供か〜福島県伊達市(2018年12月6日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2337
 
スライドに不自然な不一致
注目に値するのは、当時、早野氏が発表したグラフだ。福島医科大学の宮崎真氏と早野氏が2017年7月に発表した共著論文と同じデータを利用した同内容のグラフを使用しているが、「地域別の除染効果」を示したグラフは縦軸の目盛りが違う。ICRPダイアログで発表したスライドは、事故後の計測値が平均1マイクロシーベルト前後だが、論文では0.4マイクロシーベルト。同じ縮尺に直して2つのグラフを重ねると、曲線や外れ値の分布はほぼ一致するが、目盛りだけが違う。
 

除染効果を示したグラフ

(左)2015年9月に発表したスライド(公式動画より)(右)2017年に発表した論文の図5(論文より)
 
また「生涯の追加被曝量」について早野氏は、ICRPダイアログで「平均7ミリシーベルト」と説明しているが、論文の結論は中央値で18ミリシーベルト。2倍以上の開きがある。事故直後の数値が低くなれば、生涯の線量も低くなるはずだが、それが逆になっているのだ。さらに、わずか425人のデータ解析であるにも関わらず、99%の人が含まれる範囲(99パーセンタイル)から外れた人を示す点(外れ値)が、8個もある箇所もあり、極めて不自然だ。
  
生涯の追加被ばく線量を示したグラフ


(左)2015年9月に発表したスライド(公式動画より)(右)2017年に発表した論文の図5(論文より)
  
伊達市のデータを発表した早野氏はOurPlanet-TVの取材に対し、倫理委員会の承認を受ける前に、研究に着手していたことについて、「委託元の伊達市から市民の個人線量の分析からどのような結果を得られるかなど具体的に示して欲しいという話があり,応えたもの」と説明。また、ICRPダイアログと論文とで、データに大きな違いがあることについては「2015年のダイアログはあくまでパイロット分析」だとし、2017年の論文の結果が正しいとしている。一方で、2017年の論文の解析に一部誤りが発覚したとして、現在論文誌に訂正を申し入れていることを明らかにした。
 
一方、早野氏との共著論文を執筆した主著者の宮崎氏は、「早野先生がどのようなデータを発表されたか当方では把握しておりません」と回答し、コメントを避けた。同研究は、市が通常の手続きを経ずに、研究者にデータを渡していたこともわかっており、個人情報保護違反の可能性があるとして、市は検証委員会を立ち上げる方向で検討している。また伊達市の住民が10日、東京大学に対し、科学研究行動規範調査の申立てを行なった。
 

【第一論文】
Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys
http://stacks.iop.org/0952-4746/37/i=1/a=1
【第二論文】
Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6498/aa6094
【共著者】
宮崎真(福島医大学放射線健康管理学講座)
早野龍五(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻)
【掲載誌】Journal of Radiological Protection【識別番号】Prot. 37 320
【第1論文】黒川眞一(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)による日本語訳
http://www.ourplanet-tv.org/files/miyazakihayanopaper1.pdf
【第2論文】黒川眞一(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)による日本語訳
http://www.ourplanet-tv.org/files/miyazakihayanopaper2.pdf
 
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