福島第一原発事故
2018/03/01 - 17:50

福島・甲状腺がん196人〜「学校検診見直し」検討へ

「過剰診断」「学校検診見直し」等をめぐる激論ダイジェスト(13分)

東京電力福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」のあり方を議論している第30回検討委員会が5日、福島市内で開催された。最も注目を集める甲状腺検査については、悪性あるいは悪性疑いがあると診断された患者は3人増え、これまでに196人となった。また手術を受け、甲状腺がんと確定した患者は1人増え160人となった。

学校検診の見直し検討
会議終盤、大阪大学の高野委員が発言。今年5月から4巡目の検査がスタートすることについて、「国際的な医学倫理の基準であるヘルシンキ宣言に沿っていない」「すでに検査によって健康被害が起きている可能性がある」と指摘。医大や県の考えを質した。

これに対し、福島医大の大津留晶甲状腺検査部門長は、「中間とりまとめ」に従って3巡目検査の通知などを変えたと理解を求めた。また福島県の鈴木陽一県民健康調査課長は、検討委員会の結論に従うとしながらも、4巡目の実施とは切り離して検討すると理解していると回答した。

高野氏はさらに、「4巡目の検査を倫理的整合性をとらないまま始めるのか」とさらに追及。「議論していては5月まで間に合わない」と強調した。これら高野氏の発言を後押しする形となったのが、広島大学の稲葉俊哉委員の意見だ。学校検診の強制性に懸念を表明。県民の負担になっている可能性があるとして、甲状腺評価部会で検討するよう求めた。

星座長はこの意見について「鈴木部会長一人に引き取らせても悪いので、みんなで議論したい。」「この指摘はすでになされている。漫然と時間が経つのを待つわけにはいかない」として、学校検診見直しについて、早急に検討する考えを示した。

「過剰診療」は傷害罪成立
何を持って「過剰診断」とするのか。会議終了後の記者会見では、高野氏の発言を受けた質問が相次いだ。高野氏は「デメリットは「過剰診断」」と回答するしながらも、「やっかいなのは、「過剰診断」は何十年後にならないと分からない」などとして、臨床における手術実態や病状からは判断できないとの見解を示した。

これに対し、福島大学の富田哲教授は、「究極的なデメリットは「過剰診療」。もし本当に、取るべきではない器官をとっていたら、刑事責任では傷害罪が成立する。民事的には賠償責任の対象となる。」とした上で、今の議論はそこまでの議論になっておらず、「検査縮小の根拠にだけ使われている」と議論の矛盾を指摘した。

ひっそりと「データの把握」削除
「過剰診断」が問題視される中、検査を受託している福島県立医大が、4巡目検査の「実施計画」から、「甲状腺の状態を継続して確認する」といった文言を削除していたことが分かった。甲状腺検査について、1巡目から3巡目まで、「甲状腺の状態を把握する」ことと「子どもの健康を長期に見守る」という2つの目的が掲げられてきた。



しかし、4巡目検査の「実施計画」では目的は一変。データの把握に該当する文言が削除され、「子どもを長期に見守る」とだけ記載されていたのである。

しかも、この変更について医大から検討委員に対する説明は一切なく、ひっそりと変えられていた。このため星座長や他の委員も、文言が変わっていることを把握していなかった。誰がいつ変更したのか。大津留部門長はこの質問に対し、医大の放射線医学県民健康センターの甲状腺専門委員会等で認めてもらったと説明。しかし、大した議論は出なかったと述べた。星座長は、文言が変わった経緯を調査した上で、方針を固めるとしている。

甲状腺がんのデータをめぐっては、「経過観察」に移行した患者のデータが除外されているほか、3巡目からは市町村別の穿刺吸引細胞診結果が公表されなくなった。また20歳以上の節目検診も公表データの枠外に置かれており、検査結果が意味を失いつつある。4巡目で学校検診の見直しなどがなされれば、データ分析は難しくなり、疫学的な検証を行えるような検査は事実上解体される。

この状況について、これまで健診実施をめぐって辛酸をなめてきた水俣病の患者や支援者らはこう話す。「水俣病では、患者がどんなに要望しても国は健診をしてこなかった。それは調べると疫学的に分析できてしまうから」「岡山大学の津田敏秀教授に調査してもらったところ、これまで水俣病認定を棄却されてきた患者が、90%を超える高い蓋然性で水俣病であると立証され、高裁で歴史的な勝訴した」

前述の津田教授は2014年2月以来、検討委員会でデータが公表されるたびに、有病率を分析し、科学雑誌に寄稿してきた。また2015年には、国際的な医学誌に論文を投稿している。水俣病関係者は、「国や県が津田先生に分析されたくないのは当然」と解説する。

糖尿病と避難との因果関係認める
なお検討委員会では、妊産婦検査や健康診査の結果についても報告し、避難生活が肥満、高血圧症、糖尿病、脂質異常(低HDLコレステロール)、慢性腎臓疾患、肝機能障害、多血症など、複数の病気と因果関係があると結論づけた。

妊産婦検査の報告(動画)
資料1-1 平成28年度「妊産婦に関する調査」結果報告
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255414.pdf
資料1-2 県民健康調査「妊産婦に関する調査」調査結果まとめ
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255415.pdf
資料1-3 平成30年度「妊産婦に関する調査」実施計画(案)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255416.pdf
資料1-4 平成30年度「妊産婦に関する調査」調査票等(案)について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255417.pdf

健康診査の報告(動画)
資料2-1 県民健康調査「健康診査」平成23~29年度実施状況
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255418.pdf
資料2-2 平成23~28年度県民健康調査「小児健康診査」における身長・体重に結果について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255419.pdf
資料2-3 平成23~28年度 県民健康調査「健康診査」健診項目別受診実績基礎統計表
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255420.pdf
資料2-4 県民健康調査「健康診査」関連論文の紹介(避難生活による影響)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255421.pdf
資料2-5 県民健康調査「健康診査」平成30年度実施計画(案)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255422.pdf

甲状腺検査の報告(動画)
資料3-1 県民健康調査「甲状腺検査【本格検査(検査3回目)】」実施状況
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255423.pdf
資料3-2 県民健康調査「甲状腺検査【本格検査(平成30・31年度実施)】」実施計画
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255424.pdf
資料4   第9回 甲状腺検査評価部会 開催報告
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255425.pdf
参考資料1 第9回甲状腺検査評価部会資料【抜粋】
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255426.pdf
参考資料2 甲状腺検査のお知らせ(甲状腺検査対象者あて検査案内文)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255427.pdf
参考資料3 甲状腺検査結果の状況
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/255428.pdf

記者会見

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