公開中のドキュメンタリー映画『狼をさがして』(キム・ミレ監督)をめぐり、右翼団体の街宣予告を受けた神奈川県・厚木市のミニシアター「あつぎのえいがかんkiki」が上映中止に追い込まれたとして、配給会社「太秦」社長の小林三四郎さんや同映画に出演した太田昌国さんが10日、都内で会見した。
同映画は1970年代、東京丸の内の三菱重工本社ビルの爆破事件を皮切りに、旧財閥系企業や大手ゼネコンを標的とした爆破事件を次々に起こした「東アジア反日武装戦線」を追ったドキュメンタリー。日本では3月27日に、東京都・渋谷の映画館「シアター・イメージフォーラム」で封切られ、その後、横浜や大阪、兵庫など10カ所の劇場ですでに公開されている。
神奈川県内で繰り返し中止要求活動
こうした中、神奈川県・横浜市の「横浜シネマリン」公開初日に右翼団体の街宣車が同映画館周辺で、「反日」などとの理由を挙げて上映中止を求める抗議活動を展開。旧天皇誕生日の同月29日に、多数の街宣車が連なり抗議活動を行ったほか、5月7日には、映画館内に男性二人が詰め掛け、執拗に責任者との面会を要求し、上映中止を求めた。一方、「あつぎのえいがかんkiki」については、神奈川県警厚木署から4月30日に、入居するビルの前で、5月7日と8日に街宣活動が行われる可能性があるとの情報が入った。
これを受けて、同映画館は翌1日に、上映中止を公表した。同映画館は厚木市が運営するビル内の9階にあり、一つ下の8階には保育支援施設や託児室などもあることから、安全性の確保の視点で支配人が中止を決定した。同映画館の関係者はみな体調を崩しており、会見に参加できる状態ではないという。映画館から一任されたという配給会社の小林社長は、「表現の棄損に当たるため受け入れられないと思いつつ、支配人の判断を翻す根拠を持ち得なかった」と顔を歪め、抗議予告の段階で中止に追い込まれる前例を作ってしまったことと後悔を念をにじませた。
横浜シネマリンは上映継続を表明
一方、繰り返し街宣行動を受けてきた「横浜シネマリン」は、八幡温子社長名で声明を公表。「大音量による街宣活動で威嚇することや、直接劇場に侵入することは、言論の自由を妨げるだけでなく、来場者、劇場スタッッフに身の危険を感じさせる行為であり、到底許されるものではありません。」と上映中止要求行動を厳しく批判。「横浜シネマリンは、このような暴力的、且つ的外れな抗議行動に決して屈することなく、上映を続けます」として、予定通り、上映を継続する固い意思を表明した。
刑事告訴も視野へ
「太秦」と「横浜シネマリン」の代理人である馬奈木厳太郎弁護士は今回、街宣活動だけでなく、男性2人が「横浜シネマリン」内に入り込み、執拗に責任者との面会を要求し、上映中止を求めたことを問題視。「映画館とは平穏に上映ができるという前提で、一般の市民に開かれている。その場所に入り込み上映中止の強要をするのは看過できない」として、威力業務妨害で刑事告訴もする方向で神奈川県警と相談しているという。
同映画は現在、東京や神奈川のほか、栃木、大阪、兵庫、福岡の計6カ所で上映しているが、「横浜シネマリン」以外は「特に抗議は受けていない」とし、予定通りの上映を続ける見通し。小林社長は「「今後はどの映画館もこぼれないように私も体を張りながらやっていきたい」と強調。抗議を受けるような作品も含め、これからも怯まずに配給を続けていきたいとの強い姿勢を示した。
映画『狼をさがして』公式サイト
http://eaajaf.com/