福島県で実施されている甲状腺検査について評価する専門家の会議「甲状腺検査評価部会」が22日、福島市内で開かれ、福島医大は、2012~17年の間に県民健康調査の枠組みで把握されてこなかった事故当時18歳以下の甲状腺がん患者が24人いたことを公表した。福島県のがん登録結果により判明した。すでに公表されている県民健康調査の結果と合計すると、2020年6月までに少なくとも275人ががんと診断されていたこととなる。
今回、公表されたのは、2012年1月~17年12月の間に、福島県がん情報に登録されていた甲状腺がん症例の結果。がん診断時に住所が福島県内にある患者と福島県内の病院でがんと診断された患者のデータを調べたところ、県民健康調査のデータに含まれていなかった患者が24人いることが判明した。そのうち3人は、甲状腺検査そのものを受診していなかったという。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435505.pdf
ようやく始まった「集計外」患者数の解明
福島県では2017年3月、県民健康調査を受診していながらも、いったん保険診療となった患者の中に、県民健康調査に含まれていない「集計外」の患者の存在が判明。福島県立医科大学で独自に調査を行い、18年9月、同大学内で手術を受けた患者のうち11人が、県民健康調査のデータに含まれていないとの結果を公表した。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108
未公表の4歳児へ給付〜甲状腺がん子ども基金 (2017年3月31日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2111
集計漏れ11人〜福島県の甲状腺がん209人へ (2018年9月8日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2275
福島医大教授「新たな集計外」法廷で証言〜小児甲状腺がん (2020年2月14日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2471
しかし、福島医大以外の症例数が不明のまま、2巡目の解析を実施。地域がん登録のデータを活用する方針が示されていたものの、全症例数を把握する作業が、この4年間、先送りされてきた。今回のデータは福島県に権限のあるものに限定されているため、次回以降、県外在住者でかつ県外の病院でがんが見つかった患者のデータがさらに増える可能性がある。
甲状腺検査評価部会資料よりOurPlanetTVが作成。検討委員会で公表される人数は、患者への告知時点の症例数である一方、今回公表した症例者数は、がん登録に準じて、検査結果が出た時点の症例数なため誤差が生じている。
3巡目も「被曝影響とは考えにくい」と評価
このほか、評価部会では、34人の甲状腺がんが見つかっている3巡目検査について、解析結果を公表。国連科学委員会(UNSCEAR)データをもとに、原発事故と甲状腺検査との因果関係を調べた結果、3巡目だけでは有意差はなかったが、本格検査(2巡目と3巡目)の合計では、14歳以下の患者のがんの発見率は、20mGy未満より、20-25mGyと30mGy以上のグループで有意に多かったが、「線量が増えるに従って罹患が増える傾向は見られない」とした。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435498.pdf
UNSCEAR 推定甲状腺吸収線量と本格検査における悪性ないし悪性疑い発見率との関連(縦断調査)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435499.pdf
結果まとめ
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435500.pdf
ただ今回の解析は、2巡目と同様、UNSCEARの「2013年報告書」に掲載された甲状腺吸収線量をもとにしている。今年3月に公表された「2020年報告書」では、線量推計値が大幅に低下していることに加え、海に流れていたと思われていた放射性ヨウ素が陸に流れていたことなどが新たに判明したことから、地域ごとの線量に変化が生じており、部会長の鈴木元国際医療福祉大クリニック院長は新たな線量推計に即した解析が必要との考えを示した。
UNSCEAR2020報告書の抜粋資料をOurPlanetTVが加工。これまで低いとされてきた南相馬市の、とくに小高区で被曝線量が相対的に増えた一方、いわき市の線量は下がるなど、地域ごとの線量に変化が生じている。
また福島医大の大平哲也教授による解析データをめぐっては、解析基準となる数値や地域分けが、評価部会への提出資料と論文が異なるなど、様々な批判が起きてきた。今回も、論文への批判を受けて、解析手法を変更。疫学を専門とする大阪大学の祖父文孝教授や国立がん研究医療センターの片野田耕太がん対策情報センター 部長らが、解析手法を次々に変更することに対して、批判が飛んだ。
個人線量の推計値をもとに「対照症例研究」へ
こうした中、地域ごとの推計値をもとにした解析・評価には限界があるとして、個人の行動歴をもとにから被曝線量を推計し、がんになった人とがんになっていない人との
グループを比較する「対照症例研究」を実施する方向が示された。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435503.pdf
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435504.pdf
また今回は、手術しなくても良い甲状腺がんをも見つけ、手術をしてるとする「過剰診断」論が高まる中、昨年2月に、福島医大の鈴木眞一教授が国際シンポジウムで発表した手術症例報告が文書で提出された。2018年12月までに福島医大で手術を受けた180人の概要が報告された。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/435506.pdf
この手術症例に関連して、帝京大学ちば総合医療センター南谷幹史教授が「合併症などが起きていないのか?」と質問したが、福島医大の横谷先生が「後日、評価部会で詳細な発表する」と回答。甲状腺がんを実際に診療している医師が2015年3月に、検討委員会や評価部会の説明者から外れてから6年。直接、診療にタッチしない内科医が回答する異常な状況が続いている。
資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-b16.html