東京電力福島第1原発事故当時18歳以下だった子ども38万人を対象に行われている甲状腺検査の評価を行っている「甲状腺評価部会」の第15回目の会合が15日、福島市で開かれた。これから約1年間かけて、3巡目の検査結果を解析を進める予定だが、2巡目の解析のあり方に不透明さを残したままのスタートとなった。
2011年10月からスタートした甲状腺検査。甲状腺評価部会ではこれまで2011年度から13年度に実施された1巡目(先行調査)と2014年度から15年度に実施された2巡目(本格検査1回目)の検査結果について、それぞれ報告書を公表し、見つかっている甲状腺がんは、「放射線の影響とは考えにくい」(1巡目)「放射線被ばくの間の関連は認められない」(2巡目)と結論づけてきた。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdf”
2巡目(本格検査1回目)報告書(2019年6月)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/330479.pdf
2016年度と17年度にかけて実施された3巡目(本格検査2回目)の解析に着手するにあたり、今回は、調査開始当初に区域分けを行った「外部被曝線量」をもとにした地域別の検出割合のデータが公表されたほか、2巡目で実施した「内部被曝線量」をもとにした地域別検出割合のデータなど、複数の資料が提出された。
部会資料と論文の解析内容に違い
その中で問題となったのが、2巡目の報告書のもととなった解析したデータだ。この解析データは1年前2月、突如、UNSCEARのデータを活用した解析資料が部会に示されたものの、資料に対象者の人数はなく、記載されているのはグラフだけ。間違いがあることを指摘されたにも関わらず、データを明示しないまま、「被曝との関係性は認められない」と結論付けられた。
これに対し、一部の記者が元となるデータの開示を求めていたが、福島医大や鈴木部会長は、第三者の解析にによって、異なる結論が一人歩きするのは不安があるなどとして、解析人数の公表を拒否。論文として、出版されるのを待つよう求めていた。
ところが今回、出版された論文は、昨年、部会に提出された資料と、解析内容が大幅に異なっていることが判明した。例えば、部会資料では、1巡目を受診しているかどうかに関わらず、2巡目で甲状腺がんと診断された患者と被ばく線量の関係を解析していたが、論文では、1巡目を受診した患者だけを対象として解析。解析人数そのものが異なっている。また部会資料では、交絡因子として、年齢や受診時期だけでなく、検査間隔も調整していたが、論文では検査間隔を考慮に入れていないこともわかった。
しかも、部会資料では、吸収線量を5ミリグレイごとに分けて、4つのグループに地域分けしていたが、論文では、対象者人数を4等分して、吸収線量を4グループに分割。これにより、部会資料と論文では、区域分け自体も大幅に変わってしまった。
UNSCEAR2013年報告書の推計甲状腺吸収線量を利用した今回の解析では、同一市町村で複数の推定線量が提示されている場合もあるため、最大値と最小値の2つのパターンに分けて、被曝と甲状腺がんの発見数との関係を示しているが、例えば、部会資料では、「10〜15mGy」という下から二番目に線量の低いグループに分類されていた桑折町、大玉村が、論文では多くのケースで、上から二番目に線量に高いグループに分類されている。また人口のが多く、2巡目検査で71人中18人もの甲状腺がん患者が見つかっている郡山市も、6歳から14歳の最大値で一つ線量の高いグループに分類されている。
このほか、会津地方の北塩原村と会津坂下町は、15歳以上で、被曝推計を最大に設定した解析を除く、3つの解析でグループに変更が生じているほか、須賀川市、天栄村、西郷村、白河市などもグループが変更された。
これらの変更について、大阪大学の祖父江友孝教授は、「部会で示された解析結果と論文が異なることを初めて知った」と指摘。論文の謝辞に自分の名前が記載されているが、もし内容を変えるなら、きちんと知らせてほしい」と苦言を呈した。
また鈴木元部会長も、論文を前提に部会で実数を出さなかった経緯を鑑み、「論文になった時に修正されるとなると下駄を預けた形になる。」として、事前に相談がないまま、解析内容に変更があったことを問題視。また国立がん研究センターの片野田耕太委員も、「謝辞に入っているのは初めて知った。、出版倫理の最新の基準から考えると、謝辞に入っている研究者にも、原稿を含めて確認を取るのがあるべき姿」と指摘した。
この問題については、記者会見でも俎上に上がった。解析手法が示されないまま、昨年2月に、突然、解析結果が公表されただけでなく、計算に誤りがあるにも関わらず、解析対象者数などが明示されなかったことについて、記者が厳しく質問。2巡目の報告書のあり方に疑問を呈すると、鈴木座長は、内部被曝をもとに解析するという方向性は当初から示していたなどと釈明。また、解析する数値などを明示するかどうかについては、今後、検討するとした。
鈴木部会長によると、部会の第3期目の任期が終わる来年7月末までに、3巡目の結果を解析した報告書をまとめる計画で、その際は来年春に公表されるUNSCEAR(国連科学委員会)の推計甲状腺吸収線量を使用するという。
また、検討委員会で公表されていない甲状腺がんのデータを把握するために、今後、全国がん登録を活用する予定になっているが、福島医科大学ではすでに、倫理委員会での承認や国への手続きは終えており、今年秋にも最初のデータが入手できる見通しだという。ただ、福島県外に転出するなどして、現住所を把握できない患者のデータをどのように照合かといった課題が残っており、次の報告書に、がん登録で把握された患者を含めることができるかどうかは未知数だという。
部会では、今年3月末までの3巡目検査の最終結果も公表され、新たに1人が甲状腺がんと診断された。また、同じく3月末までの節目検査についてもデータが公表され、3人が甲状腺がんと診断されて、これで穿刺細胞診で甲状腺がんの疑いがあると診断された患者は241人(うち一人は良性)、手術を受けて甲状腺がんと確定した患者は195人となった。