福島第一原発事故
2020/03/18 - 12:58

被曝データの提供「不適切」〜伊達市調査報告書

伊達市民の被ばくデータを本人の同意を得ずに論文に使用していた問題で、市が設置した調査委員会(駒田晋一委員長)が17日、報告書を取りまとめ、須田博之市長に提出した。報告書は、3万4000人分の同意が得られていなかったとした上で、「個人情報の取扱上、不適切だった」と結論づけた。一方、報告書では多くの経緯が未解明のままとなっており、市民からは警察の協力を得るべきだとする声があがった。

原発事故が発生した2011年8月以降、「ガラスバッジ」と呼ばれる個人線量計を市民に配布し、積極的な被爆線量計測を行ってきた伊達市。2012年には全住民を対象に線量計を配布し、大規模な調査を実施していた。ところが、これらのデータが市民の知らないところで研究者の手にわたり、同意を得ていない住民のデータも含め論文となっていたことが発覚。昨年2月、市がデータ提供の経緯を解明する調査委員会を設置していた。

伊達市被爆データ提供に関する調査委員会報告書(2020年3月17日)

報告書によると、同意を得ずに研究者に提供されていたのは、調査前に市が把握していた人数より多い3万4241人分の個人線量データで、研究者に手渡されたCDには、地番を含む住所などの個人情報も含まれていた。また、これらのデータを外部に持ち出したにも関わらず、組織内での決裁を受けておらず、持ち出した記録も作成されていなかった。

報告書を受け取った須田市長は、「個人情報を含むデータを提供された可能性があるということ。これら調査内容を真摯に受け止め、再発防止に向けて、しっかり対応していきたい。」と述べ、市民に対しても説明する考えを示した。


2015年8月12日、伊達市職員が宮崎氏に個人情報の含まれたCDを手渡したとされるりょうぜん虹彩館。

多くの経緯が未解明
一方で報告書では、誰がデータを提供したのかや、データが廃棄されたかどうかなど、多くの部分が解明されなかった。「個人保護情報審議会に意見を聴いていれば、(中略)外部提供することが可能であった」(報告書)データであったにも関わらず、なぜ市民に秘密裏で提供され、研究が行われたのか。この点も、触れられなかった。

報告書では、「市の依頼によってデータ解析が行われた」としているが、データ提供に関与した当時の仁志田昇司前市長も、半澤隆宏直轄理事も2017年の議会答弁では、この事実を隠し続けていた。テータ提供をめぐっては、実態と異なる日付や内容の文書が作成されるなど、不自然な点が多数あるが、こうした点も解明されなかった。

また2015年2月に、千代田テクノルが研究者2人にデータ提供した経緯についても、ほとんど記載がなかった。市は同年7月末、宮崎氏から、GISコードを利用して作成した解析図を受け取っている。この図は論文に掲載された内容と類似しており、研究者の手元にはこの時点で、第8次航空機モニタリングが実施された2014年6月までのデータを解析していたことを意味するが、時系列表にさえ、この事実が記載されていなかった。

被ばく線量データの提供を市民の立場から検証している市民団体の代表で、東京大学と福島医大に研究不正調査を申し立てた島明美さんは報告書について「踏み込みが足りない」と批判。個人情報を含む被爆データが格納されたCDが紛失したまま、見つかっていないことについて、「分からないままになっているのは問題」と指摘。「市が困っているなら警察に相談してほしい」と述べ、個人情報を軽く扱っている市の対応を批判した。

新たなデータ提供はせず〜伊達市長
伊達市のデータを使った研究をめぐっては、市民の申し立てを受け、データの提供を受けた東京大学と福島県立医科大学がそれぞれ研究不正調査を実施。昨年7月、福島医大は「研究者に重大な違反や過失があったとは認定できない」とする調査報告書を公表した。その際、伊達市側に原因があったと指摘し、伊達市に対し改めてデータを提供するよう求めていた。

この点について須田市長は「もし提供するとすれば、改めて同意を取る必要があるが、市としては、改めて同意を取ることは困難だ」と述べ、データを再提供することはしないと明言した。一方、福島医大は「本報告書及び昨日の伊達市長様ご発言内容について、研究を委託された本学としては、委託元である伊達市様から直接ご報告、ご説明をいただけるものと考えており、その前に何らかのコメントをすることは控えさせていただきます。宮崎講師も同様です。」と回答した。

同論文は、国の放射線審議会が線量基準の見直しを議論する際、参考研究として採用されたが、データの不正提供疑惑が浮上したため、報告書からは削除された。また国際放射線防護委員会(ICRP)の新たな勧告の中にも掲載される予定だったが、最終的には削除されたという。このほか、著者のひとり早野龍五氏によると、国連科学委員会(UNSCEAR)報告書にも盛り込まれる予定だった。さらに、原子力規制委員会の田中俊一前委員長にも論文掲載前の解析データが提供されていた。

改めて浮上した矛盾点

GISデータおよび除染実績など住所情報の扱いについて
早野氏(2015年8月19日作成・20日追記資料)
「除染実績データには世帯コードが記載されていないため、除染実績データ字名と地番を用いて、GB(ガラスバッジ)データとの連結を行なった」

研究依頼書(伊達市2015年10月27日作成・文書の日付は8月1日)
「受検者の住所情報をGIS(地理情報システム)に準拠させ、さらにGIS情報を国が行なっている航空機による放射線モニタリングのメッシュ(約300メートル)に合致させたものをそれぞれ突合して、データべースを構築した」

研究計画書(宮崎氏2015年11月2日提出)
「個人ごとにうけた検査結果と、GIS返還後の住所地番および航空機モニタリングのメッシュごとの突合はすでに伊達市によりデータベース化が施されており、研究者には個人が特定可能な情報は市により除去され提供されない。」

半澤氏答弁(議会答弁2017年6月14日 )
「それは、GIS化は伊達市でそういった技術はございませんので、早野先生がそういったことができるということでしたので、早野先生にお願いして、GIS化を市で、市でといっても、私たちがというか、職員がということではないですよ、早野先生に行っていただいて、そういった構築をしたということでございます。」

須田市長(個人情報保護審査会弁明書2019年11月5日付)
「当データの作成は、市が東京大学大学院理学系研究科教授の早野龍五氏に依頼しデータベース化したものである。解析及び研究論文作成にあたり、当データは早野氏から宮崎氏に直接提供している。」

宮崎氏の回答(2019年2月5日OurPlaneTV取材)
「(GISデータを使った)7月30日に示したデータは、2015年2月に千代田テクノルから提供を受けたデータを基に、ガラスバッジ測定データ活用の方向性についてサンプルとして示したもの」

宮崎氏への聞き取り(福島医大調査)
「半澤氏が住所情報を7月中旬に早野名誉教授から伊達市に提供し伊達市のチェックを受けた字単位のジオコードに置換した」
半澤氏への聞き取り(伊達市調査)
データ加工方法に係る明確な記憶なし。

2015年8月12日に匿名加工に使用したパソコン
半澤氏聞き取り(伊達市の調査)
「おそらく宮崎氏のパソコンではなかったかなという記憶である」
宮崎氏の文書回答(伊達市の調査)
「半澤政策監が持参したパソコンを使いました」
ノートパソコン貸し出し記確認録(伊達市調査)
すでに廃棄されており、確認できず。
半澤氏への文書確認(伊達市調査)
「確かな記憶はありません」

個人情報データが含まれたCDが返却されていない点
半澤氏への聞き取り(伊達市調査)
「担当部署が適切に処理したのではないかと認識している」
市職員への聞き取り(伊達市調査)
返却や廃棄処分を確認した者はなし。
宮崎氏への文書確認(伊達市調査)
「りょうぜん虹彩館にて半澤政策監にお返ししました。後日、市役所にお戻りになって、シュレッダーにて廃棄したとお聞きしました」
半澤氏への文書確認(伊達市調査)
「確かな記憶はありません」

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