福島県内の小児・若年甲状腺がん患者や家族がつくる当事者団体「甲状腺がん支援グループあじさいの会(以下、あじさいの会)」のメンバーらが18日、福島県庁を訪れ、甲状腺検査などについて要望書を提出した。東京電力福島第一原発事故当時中学生だった甲状腺がん患者も県との意見交換に参加。患者や県民の意見を反映する仕組みを整備すべきだなどと訴えた。甲状腺検査でがんと診断された患者本人が県と直接、意見交換するのは初めて。
福島原発事故に伴い急増している小児・若年甲状腺がん患者に関する要望書
https://www.ajisainokai.net/post/20190618
県庁を訪問したのは、内科医で、「あじさいの会」代表の牛山元美さん、同事務局長の千葉親子さんのほか、甲状腺がん患者本人と患者家族の計4人。県民健康調査課の菅野達也課長ら県の担当者に要望書を手渡し、およそ1時間にわたって意見交換した。
県民健康健康調査で甲状腺がんが見つかり、手術を受けた女性は、今月3日に甲状腺評価部会が公表した甲状腺検査2巡目に関する報告書(案)について、「被曝との影響がないと結論づけるのは時期尚早だ」と指摘。初期被曝のデータはわかっていないことが多いとした上で、個人線量をきちんと把握してほしいと要望した。
2019年6月3日開催の「第13回甲状腺評価部会」。報告書(案)が突如、公表された
また、5巡目以降の甲状腺検査の「お知らせ」や「同意書」が検査のデメリットを強調していることを厳しく批判。「私自身のがんは小さかったが、気管に近く、検査で早期に見つけなければ、肺転移する可能性もあった。実際、1年間で1センチも腫瘍が増大した」と自身の経験を述べ、「被曝による甲状腺がんは、がんの進展が早い可能性があるということも考慮にいれるべき。私だけでなく、ほかの患者も、早くがんが見つかって良かったと思っている」と検査縮小に異議を唱えた。
そして、3巡目から、同意書に「次回以降の検査のお知らせをは不要」とするチェック欄が設けられていることを問題視。県民の検査の機会を奪うことは見直すべきだと主張した。
これに対し菅野課長は、「専門家には様々な意見がある。検査を強制することはできない。検査の目的は不安の解消」と説明。千葉事務局長が「目的はそれだけではない。長きにわたり、県民の健康を見守るという目的もある」と反論。甲状腺がん当事者の女性も、「原発事故と健康影響の因果関係を調べるために、なるべく多くの県民に協力してもらえるようにお願いするのが県の仕事ではないか」と強調した。
2019年4月8日撮影(菅野県民健康調査課長(左))
このほか、甲状腺がんとなった患者に医療費を助成している「甲状腺検査サポート事業」についても要望。窓口で医療費を負担する現行制度を見直し、医療証を発行するなど手続きを簡素化してほしいなどと求めた。
県によると、患者本人が県との意見交換に参加するのは初めてだという。職員のひとりは終了後、貴重な意見を聞かせてもらったと感想を述べていた。「あじさいの会」と県との意見交換は、3月に次いで今回が2回目。前回は世話人と患者家族が参加したが、今回は、患者本人の参加が実現した。同会では、患者の意見が取り入れられるよう、今後も、継続的に面会を求めていきたいとしている。