福島第一原発事故
2019/02/09 - 02:00

千代田テクノルのデータを研究に使用認める〜宮崎・早野論文


千代田テクノル本社(東京都文京区)

伊達市の住民の被曝データを同意なく論文に使っていた「宮崎早野論文問題」。市からデータを受け取る前に、著者は、公表されている2つの論文の1本について、主要な解析を終えていたことがわかった。これについて、第一著者の宮崎真福島医科大講師は5日、個人線量測定会社「千代田テクノル(本社:東京都文京区)」から提供を受けたデータを使っていたことを認めた。また研究は、仁志田昇司前市長に持ちかけられたことも明かした。著者が、千代田テクノルのデータを論文解析に使用していたことを認めたのは初めて。

市のデータ提供前に解析終了
宮崎氏が使用を認めたのは、伊達市の個人線量計測を受託している千代田テクノルから入手したデータ。伊達市から個人線量分析業務を受託している同社は2015年2月13日金曜日、「成果物の品質向上を図る」との名目で、宮崎氏と早野氏にデータを開示したいと求める文書を仁志田前市長に提出。土日を挟んだ16日月曜日、市は個人情報保護審査会にかけることなく承認した。

早野龍五東大教授に手渡されたデータは即座に解析作業が進められ、同年7月には、1本目の論文に掲載されている図やグラフがほぼ完成していたとみられる。宮崎氏が7月30日に、市の健康推進課と打ち合わせをした際、職員に示した図やグラフの解析人数や分布が、2016年8月に「Journal of Radiological Protection」に投稿した論文のデータとほぼ一致していた。

7月30日の打ち合わせ議事録と宮崎氏が持参した別紙(リンク)
2016年12月に公表された宮崎氏と早野氏の「第一論文」(リンク)

第一論文の表1 宮崎氏持参データ

第一論文の図3 宮崎氏持参データ

第一論文の図4 宮崎氏持参データ

市長が論文にどう関与?
宮崎氏はOurPlanetTVの取材に対し、「7月30日に示したデータは、2015年2月に千代田テクノルから提供を受けたデータを基に、ガラスバッジ測定データ活用の方向性についてサンプルとして示したもの」と医大の広報を通じてメールで回答。「市が作成したGISデータをもとに論文を執筆した」とのこれまでの説明を一転させ、千代田テクノルの住民データを目的外使用していたことを初めて認めた。同社がデータ開示した対象業務は同年3月13日に契約が終了しており、同社の報告書には類似のデータ解析は一切存在していなかった。

宮崎氏はさらに「2014年に伊達市長から、ガラスバッジ測定データの活用について相談を受けたことに端を発し、伊達市依頼の下、データの活用方法について伊達市と綿密なやり取りを行ってきた 。」と説明。論文執筆の背景に、市長の関与があったことを明らかにした。

2017年市議会で、高橋一由議員が、同論文は全面除染を行わなかったCエリアの除染問題に区切りをつけるために、宮崎氏へ論文執筆を依頼したのではないかと質問。これに対し、除染を担当する半澤隆宏直轄理事(当時)は否定していた。仁志田前市長は同年9月の議会で、早野教授らが、(毎時0・23マイクロシーベルトという数値が実態に合わないということを)純粋な研究として検証したいというのは住民のためにも将来のためにもなるとして、自身の判断で協力したと答弁していた。

※Cエリア:年間5マイクロシーベルト以下の地域で市の8割を占める

伊達市議会2019年6月議会・9月議会での論文データに関する質疑

当時の事実関係を確認するために、OurPlanet-TVは昨年12月、千代田テクノルを取材。2人の研究者との契約状況などを尋ねたが、伊達市に文書を提出した福島復興支援本部の吉田浩一本部長がすでに退職しているため、詳細はわからないと一点張りだった。

線量計測事業本部の新田浩本部長は、「福島復興支援本部もすでに解散しているため、資料も定かでないところがある」と回答。また安全・品質管理部影山富司夫法務課長も、「当時の福島復興支援本部が担当していたので、私のところには来ていない。当社の社内的な情報セキュリティールールに基づくと、探せば何かあるかもしれないが、ただそれができるかどうかは社内判断」と釈明した。

同社は1958年に創業した個人線量計測サービス事業者で、福島原発事故後、福島県内の多数の自治体からガラスバッジによる外部被曝線量測定業務を受託してきた。中でも伊達市とは、2011年8月から、他の自治体に先駆けて契約。2013年8月には、外部被曝検査に関する「データベース構築業務」を、10月には、「外部被ばく検査事業集計分析業務」を随意契約している。

品質向上のために、受託を受けたデータを研究者に提供するのは、よくあることかと質問すると、馬場経営企画室長は「このケースだけだと思う。」と回答。「データ分析という依頼自体が伊達市だけ。本業は、測って結果を出すだけ」で、分析やデータベース構築は本業から外れるとという。「当時の福島復興支援本部は、各自治体さんがお困りなことを現地でご支援申しあげるのが基本的なスタンスでしたので、少し本業から染み出したところも本部長の判断でお引き受けしたと思う」と理解を求めた。

今回、宮崎氏が、同社のデータを研究に使っていたと認めたことを受けて、改めてコメントを求めたところ、「本日、明日と広報責任者が休みを頂いており、コメントをすることが出来ません。そのため、(お答えすることが出来るかどうかも)含めて、来週改めてご連絡をさせて下さい。」と回答した。

明らかになった経過

2011年8月 伊達市が千代田テクノルにガラスバッチ による「外部被曝計測」を委託
2012年8月 伊達市が住民に同意書を送付
2013年8月 伊達市が千代田テクノルに「データベース構築業務」を委託
2013年10月 伊達市が千代田テクノルに「外部被ばく検査事業集計分析業務」を委託
2014年10月 パリで開催されたIRSNのセミナーに仁志田伊達市長、半沢直轄理事、多田順一郎アドバイザー、早野氏、宮崎氏らが参加。伊達市のビッグデータを解析して論文を書くよう提案を受ける

2015年

1月 宮崎真氏が伊達市のアドバイザーに就任
2月13日 千代田テクノルが宮崎・早野氏へのデータ提供許可を伊達市長に求める
2月16日 伊達市長が千代田テクノルにデータ提供を了承
3月13日 千代田テクノルが「外部被ばく検査事業集計分析業務」成果品を納品
7月30日 定例打ち合せで、宮崎氏が論文掲載データと同じ図が含まれた資料を提示
8月1日 市が福島医大と宮崎氏に研究依頼文書(日付と内容が捏造された可能性)
8月25日 定例打ち合せで宮崎氏が論文用の依頼文書作成を要望
9月12日 ICRPダイアログにて早野氏が論文に掲載された図と同じデータを公表
11月2日 研究計画を倫理委員会に申請
12月17日 倫理委員会が研究を承認

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