小児甲状腺がん
2016/02/12 - 16:26

甲状腺がん悪性・悪性疑い166人〜福島県調査

東京電力福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」の検討委員会が15日、開催され、100人を超える小児甲状腺がんについて、通常より「数十倍のオーダーで多い」とする中間とりまとめを了承した。同時に、チェルノブイリよりも被曝線量が低いなどの理由により「放射線の影響とは考えにくい」と結論づけた。2011年からこれまでに、悪性または悪性疑いと診断されている子どもは166人にのぼる。

この日の検討委員会で新たに公表されたのは、昨年12月末までの甲状腺検査データ。それによると、本格調査(2巡目)の2次検査で穿刺細胞診を行い、悪性または悪性疑いと診断された子どもは、前回より12人増え51人となった。そのうち1人が新たに手術を受け、甲状腺がんと確定した。穿刺細胞診で悪性と診断された子どもたちの年齢は、事故当時6才から18才で、男女別では、男性21人に対し、女性は30人だった。

前回との比較では、51人のうち、先行検査でA1判定だった子どもは25人、A2判定だった子どもが22人、B判定は4人だった。前回の検討委員会では、A1と診断された人にはまったく所見はなく、腫瘍が急成長した可能性が議論となったが、今回、検査を担当している大津留晶教授はこれまでの見解を大幅に変更。結節はエコー画像で判別できないこともあるとし、「見落とし」があった可能性を示唆した。

年度でみると、2015年度(平成27年度)に悪性ないし悪性疑いと診断されたのはわずか6人だが、男女比は男性4人に女性2人と男性が多い。また甲状腺がんの大きさは平均16.4ミリで、最大は30.1ミリとなっている。

合計116人の甲状腺がん
2011年から2013に実施された1巡目の先行調査については、今年8月に公表したデータを「暫定確定版」としており、前回に続き、新規データは口頭発表のみとなった。福島県立医大の大津留晶教授によると、先行検査で、甲状腺がんの悪性または悪性疑いと診断された子どもは116人。手術後に良性結節と診断された1人を除くと115となった。また手術を終えて甲状腺がんと確定した子どもは2人増え100人となった。

先行検査と本格検査を合計すると、甲状腺がんの悪性ないし悪性と診断されている人は166人となり、手術で甲状腺がんと確定した人は116人となった。

「数十倍のオーダーで多い」が「被ばくとは考えにくい」
検討委員会では、これらのデータについて「地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計等かなどから推計される有病数に比べて数十倍のオーダ—で多いがんが発見されている」とする中間とりまとめを了承した。しかし、「将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりしないがんを多数診断している可能性が指摘されている」などとして、被ばくによる過剰発生の可能性については、検討がなされなかった。

中間とりまとめでは、「被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて遥かに少ないこと」、「被ばくからがん発見までの期間が1年から4年と短いこと」「事故当時5歳以下からの発見はないこと」「地域別の発見率に大きな差がないこと」から、「放射線の影響とは考えにくい」と評価した。

これに対し、記者会見では、「手術症例が多いのはなぜか」といった質問が出されたほか、「チェルノブイリでも、甲状腺等価線量が、50ミリや20ミリ以下でも、甲状腺がんが発生している」「ロシア報告書の記載と、この会議で語られているチェルノブイリのエビデンスが異なる」などの指摘が相次いだ。

ウクライナ内分泌代謝研究所のトロンコ所長らが、1999年に発表した論文によると、1986年から1997年までに小児甲状腺がんと診断された14歳以下の患者345人の被曝線量は、100ミリ以上が168人で48.7%、100mGy以下は177人で51.3%と、100ミリ以下が半数を超えています。

さらに100mGy以下を詳しくみると、50mGyから100mGyが52人で15.1%、10mGyから50mGyは71人で20.6%。10mGy以下も54人と15.7%を占めている。



※トロンコ所長らの論文図3をもとにOurPlanetTVが作成
Tronko Ph.D et at Thyroid carcinoma in children and adolescents in ukraine after the Chernobyl nuclear accident
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/(SICI)1097-0142(19990701)86:1%3C149::AID-CNCR21%3E3.0.CO;2-A/full

存在意義が問われる「検討委員会」〜専門家不在で議論
今回の検討委員会は、甲状腺の専門医である清水一雄教授や、チェルノブイリに詳しい高村昇教授、被ばく線量推計に関わっている放医研の明石真言理事、疫学を専門とする国立がんセンターの津金昌一郎教授や放影研の児玉和紀教授が軒並み欠席。また、これまで、情報開示などについて問題提起を続けてきた日本学術会議前副会長の春日文子氏も欠席した。

一方、この1年間、検査結果を説明する側も不在のまま、会議が続けられている。福島県立医科大学の県民健康管理センターにおいて、現在も甲状腺検査全体を統轄・指導する立場にある山下俊一教授は、検討委員会の座長を退任して以降、検討委員会には一度も出席していない。また、検査や治療の中心を担っている鈴木眞一教授も、去年2月の会議を最後に、検討員会から姿を消している

直接、検査に携わっている県立医大の医師らは、検討委員会の2〜3週間前に、東京で「甲状腺検査専門委員会診断基準等検討部会」を開催。外部の甲状腺専門医ら15名とともに、検討委員会より早く、しかも詳細なデータを検討しており、検討委員会は事実上、形ばかりの会議となっている。

関連記事「福島県の甲状腺検査「新秘密会」?〜山下俊一氏が座長」
https://www.ourplanet-tv.org/39422/

OurPlanetTVの取材によると、「甲状腺検査専門委員会診断基準等検討部会」は、福島県民健康調査基金による委託費で開催。検討委員会と外部委員の人数はほぼ同数だが、福島県立医大から甲状線検査に関わる多数のスタッフが東京に出張するため、検討委員会よりも多くの予算を割いている。しかし会議は非公開で、情報公開しても、議事録の重要な部分はすべて黒塗りとなっている。

国際環境疫学会(ISEE)の書簡には対応せず
福島での甲状腺がん多発について、日本政府に対して検査の改善やより正確な分析を求めた国際疫学会(ISEE)会長の書簡について、送付先となっていた環境省の北島智子環境保健部長と福島県県民健康調査課の小林課長は、具体的な対応をする予定がないと述べた。

甲状腺がん「信頼性高いリスクの推定を」〜国際環境疫学会が忠告
https://www.ourplanet-tv.org/38305/

関連資料
第22回「県民健康調査」配布資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-22.ht…

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