「これ、飲めない水なんです。」
新国立競技場の建設工事に伴い、2月からの取り壊し工事が目前に迫っている都営霞ヶ丘アパート(新宿区)。東京都が立ち退き期限を定めていた1月30日を超えても、新居が決まっていない2世帯が生活を続けている。しかし、都はアパートで生活している住民が残っていることを知りながら、生活のインフラ整備を停止。現在、アパートの水は「飲料水に適さない」状態となっている。
このアパートで50年前から生活している60代の女性は、90代の母を介護するため、新居に移るのが難しい状況だ。女性によれば、立ち退き期限をむかえる前日の1月29日の午前、東京都の東京都都市整備局と、住宅供給公社、環境技研の担当者3名が訪れ、水道水の検査を行なった。
霞ヶ丘アパートでは、給水塔を使い各世帯に給水しているが、検査の結果、飲み水としての基準を満たさず、「飲み水として許可できない」と告げられたという。女性は、詳細な説明を都に求めているが、2月3日時点で、都からの返答はない。
飲料水がないという、ライフラインを絶たれた中での生活を強いられている高齢者世帯。女性は飲料水や料理のために、ペットボトルの水を買わざるを得なくなっている。
霞ヶ丘アパートが完成したのは1964年東京オリンピックの開催3年前となる1961年。90代の母親は、その前からこの町に暮らし、アパート完成とともに入居した。女性もこの町で育った。
普段、車椅子を利用している母親は現在、週に4回、新宿と渋谷区のデイサービスを利用している。母親は夜中に目覚めては、娘である女性を呼ぶため、深夜も目が離せない。二間続きの現在の間取りだからこそ、自宅で面倒を見ることができるという。
女性は母親の環境を変えないよう、今と同じデイサービスに通うことができる距離にあり、二間続きの部屋がある住居を求めているが、東京都の示した住居の中には、条件のあう物件がないのが実情だ。都の対応について「高齢者だから、犬猫のように追っ払う感じ。きちんと説明して欲しい。」と憤る。
かつては約300世帯が生活していた霞が丘アパートだが、大規模な新国立競技場の建設が決定したため、2012年に東京都が取り壊しを決定。若い世帯から順に転居を開始し、渋谷区や新宿区にある3つの都営アパートに移った。現在は、転居に納得できない高齢者2世帯が生活している。
写真:引っ越しを終えた居住者のごみが溜まる
東京都の計画では、2月中に同アパートの解体に着手し、来年から始まる新国立競技場の工事期間中は、建設車両の駐車場や資材置き場として使われる。2020年東京オリンピック大会期間中には、観客の「たまり場」として使われる予定だ。
この場所に、大規模な建築物が建設される予定はなく、五輪終了後は公園になる予定だ。「女性はこのアパートを解体しなくても五輪は開催できるのに」を主張する。しかし、都は、住民がこのまま転居しない場合、明け渡しを求める裁判を起す方針だ。
現在の霞ヶ丘アパート周辺周辺
新国立競技場建設予定地