福島県は31日、東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて実施している福島県民健康調査の専門家会議を開催し、新たな甲状腺がんデータなどを公表。甲状腺がんと疑われる子どもは検査対象の38万人のうち、137人となった。すでに手術を終えたのは105人。病理診断により1人は良性結節、残りの104人が甲状腺がんと確定した。
今回、公表されたのは今年6月30日までのデータ。2011年から2013年までの「先行検査」では、2次検査の穿刺細胞診断で悪性または悪性疑いと診断されたのは1人増え、113人に増加。そのうち99人が手術を実施し、一人が良性結節と確定診断されたほかは、95人が乳頭がん、3人が低分化がんと診断された。今回、新たに増えた1例はいわき市。
また2014年〜2015年にかけて行われている2巡目の「本格調査」で、悪性・悪性疑いと診断されたのは前回より10人増え、25人となった。新たに診断された10人の市町村は、浪江町1人、 南相馬市1人、伊達市3人、福島市2人、本宮市1人、郡山市1人、桑折町1人。そのうち、1人が新たに手術を終え、これまでに6人が乳頭がんと確定診断された。今回がんと診断されや25人の子どものうち10人が、1巡目ではA1、13人がA2と診断されており、計23人が「問題なし」とされていた。
過剰診断か?〜県立医大が手術症例を公表
「過剰診断なのではないか?」
こうした疑問に答えるため、福島県立医大は県の要請に対応し、「手術症例」を公表した。福島県立医科大学の甲状腺内分泌外科部長・鈴木眞一教授の公表データによると、今年3月31日までに外科手術した104例のうち、福島県立医大が手術を実施したのは97例。術式は甲状腺すべてを摘出する全摘が6例(6%)。片葉切除90例(94%)だった。
全症例96例のうち、病後病理診断で甲状腺外浸潤(pEX1)のあったのは38例(39%)、リンパ節転移は72例(74%)。肺への遠隔転移は3例。10ミリ以下の腫瘍で、リンパ節転移も、甲状腺外浸潤、遠隔転移のないもの(pTlapN0M0)は8例(8%)だった。いずれも、術後出血、永続的反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症、片葉切除後の甲状腺低下などの術後合併症はないという。
本格検査は18.63倍多発〜津田教授
岡山大学で疫学を専門にしている津田敏秀教授は、2巡目で25人もの新たな甲状腺がんが生じていることについて疑問視。「本格検査」について、先行検査からの期間を3年間、第1次検査確定数149,065人を分母とし、全国平均100万人中3人という発生率と外部比較すると、18.63倍(95%信頼区間:12.06倍-27.51倍)と統計的に有意な多発であると分析した。※
津田教授はブラジルのサンパウロで開催されている国際環境疫学会に参加中で、現地時間の31日午後、同分析などをポスター発表するほか、福島原発事故に関わるシンポジウムに登壇する。OurPlanetTVでは9月1日午後13時に津田教授とスカイプでつなぎ、より詳細な分析や学会での反応などをお伝えする。
※第2次検診対象者1,173人のうち結果が確定したのは2次検診受診者数752人中659名(87.6%)。がん細胞が検出された25人にだけがんが発生し、まだ第2次検査の進んでいない残る727人からは1人もがんが発生しないという極端に低く推定される仮定をした。
配布資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-20.ht…
検討委員
明石 真言(放射線医学総合研究所 理事)
井坂 晶(双葉郡医師会 顧問(前会長)
稲葉 俊哉(広島大学 原爆放射線医科学研究所長・教授)
春日 文子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部長 (前日本学術会議副会長)
北島 智子(環境省 環境保健部長)
児玉 和紀(放射線影響研究所 主席研究員)
清水 一雄(日本医科大学 名誉教授、金地病院 名誉院長(日本甲状腺外科学会前理事長)
清水 修二(福島大学 人文社会学群経済経営学類 特任教授)
髙村 昇(長崎大学 原爆後障害医療研究所、国際保健医療福祉学研究分野 教授)
津金 昌一郎(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長)
床次 眞司(弘前大学 被ばく医療総合研究所 放射線物理学部門 教授)
成井 香苗(福島県臨床心理士会 東日本大震災対策プロジェクト代表)
星 北斗(一般社団法人福島県医師会 副会長)
前原 和平(福島県病院協会 副会長(前会長))
室月 淳(宮城県立こども病院 産科部長、東北大学大学院医学系研究科先進発達医学講座教授)