東京電力福島第1原発事故に伴い福島県内で実施している「県民健康調査」の検討委員会が12日、福島市で開催された。事故当時18才未満だった子ども38万人を対象に実施している甲状腺検査で計117人の子どもが甲状腺がんの「悪性・悪性疑い」と診断され、そのうち87人が甲状腺がんと確定した。また、1巡目の検査では「異常なし」とされた子ども8人が、2巡目で新たに甲状腺がん悪性・悪性疑いと診断され、うち1人が手術を終え、甲状腺がんと確定した。
1巡目は悪性・悪性疑い110人、2巡目は悪性・悪性疑い8人
2011年から2013年度まで実施された1巡目の「先行検査」では、昨年末までの約30万人が受診し、「悪性・悪性疑い」と診断された子どもは110人。そのうち87人が手術を行い、術後の組織検査の結果、1人を除く86人が甲状腺がんであると確定した。86人のうち、86人が乳頭がん、3人が低分化がんで、一番小さい子どもは事故当時6才。穿刺細胞診の診断時は8才だった。男女比は1:2。経過観察をしながら、残り23人も順次手術を行う見通しだ。2巡目で甲状腺がんが確定したのは初めてとなる。
2014年から2015年度に実施している2巡目の本格検査では、昨年末までに約10万人が受診。結果が判明した7万5000人のうち、穿刺細胞診によって8人が「悪性・悪性疑い」と診断された。そのうち1人は手術を終え、術後の組織検査にて乳頭がんであると確定した。2巡目の診断で、悪性・悪性疑いと診断された8人のうち、1巡目でA1判定だった子どもは5人、A2判定だった子は3人だった。腫瘍径が17.3ミリの子もいたが、1巡目の先行検査ではA1判定だったという。検査を担当する福島県立医大の鈴木眞一教授は、今回の8人に関し、1巡目と2巡目の検査の間隔は最大2年と説明した。甲状腺がんと確定した子どもの年齢や性別は明かさなかった。
検査結果判明人数:297,046 人(受診者の 99.5%)のうち
・B、C判定(要2次検査):2,251 人(0.8%)
・悪性ないし悪性疑い:110人
・手術実施済み:87人
・手術後の病理診断結果:良性結節1人、乳頭癌83人、低分化癌3人
・性別:男性:女性:38 人:72 人
・平均年齢 17.2±2.7 歳 (8-21 歳)、震災当時 14.8±2.6 歳(6-18 歳)
・平均腫瘍径 14.0±7.3 mm(5.1-40.5 mm)
平成 26 年度実施対象市町村細胞診結果
検査結果判明人数:75,311 人(受診者の71.0%)のうち
・悪性ないし悪性疑い 8 人
・手術実施済み:1 人
・手術後の病理診断結果:乳頭癌 1 人
・男性:女性 4 人:4 人
・平均年齢 15.6±3.4 歳(10-20 歳)、震災当時 12.1±3.4 歳(6-17 歳) ・平均腫瘍径 10.2±3.9 mm(6.0-17.3 mm)
先行検査資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/101599.pdf
本格検査資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/101600.pdf
同委員会では、この日、2巡目の検査で、1名が甲状腺がんと確定したことについて、被曝影響かどうかについての議論は全く行われなかった。終了後の記者会見で、星北斗座長は「原発事故との因果関係はないとは言えないが、あたらな患者を見つかったことで、これまでの評価を変えるものではない」「内部被曝との関係を追及して行く必要がある」と回答した。
なお、今回の検討委員会では、県民健康調査のスクリーング検査以外で、甲状腺がんが見つかっている可能性を示唆する発言があった。県の健康調査課が作成した「県民声」の中に「県民健康調査以外の検査で甲状腺がんになっても調査の統計に含まれていないのはおかしい」との意見が掲載されていたことに対し、清水修二副座長が事実かどうかを確認。福島県立医大県民健康調査センターの安村誠司副センター長が、現在のデータには含まれていないと回答。また、記者会見の中で、鈴木眞一教授は「患者の診断情報なので回答できない。検討委員会で開示するかは決めることだ」との認識を示した。
線量評価にかかる年数は?
線量評価を実施し、疫学的な結論を得るまでにはどの程度の年月が必要なのか。記者会見の中で長崎大学の高村昇教授は、「チェルノブイリにおける、ヨウ素のよる甲状腺内部被曝線量評価は、事故後10年後からずっと検討が続けられ、信頼できる線量評価が出たのはそんな昔ではない」として、20年以上の年月がかかったことを説明した。その上で、チェルノブイリにおいては、必ずしも線量と甲状腺がんの関係だけではなく、事故前に生まれた子どもと事故後に生まれた子どもの比較や、発症した子どもの年齢などから、事故後10年程度で、国連機関が小児甲状腺がんの事故影響について認めたとした上で、「様々なデータが集まることが重要だ」と述べた。
なお線量評価をめぐっては、ヒロシマ・ナガサキの原爆症に関する外部被曝線量の推計モデルが確立したのは、原爆投下から30年以上経った1986年。更に改良が加えられ、現在のモデルとなったのは2002年である。しかもそのモデルをめぐって、原爆棟から70年になる今も、原爆症認定をめぐって裁判が続いている。
・対象人数:約38万人
・悪性ないし悪性疑い 118 人
・手術実施済み:88 人
・手術後の病理診断結果:良性結節1人、乳頭癌84人、低分化癌3人
先行検査資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/101599.pdf
本格検査資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/101600.pdf
岡山大学津田敏秀教授の分析
今回、公表されたデータをもとに、疫学を専門とする岡山大学の津田敏秀教授が福島県を9つの地域に分けて甲状腺がん悪性の子どもの割合を分析。内部比較は、相馬地方を対照地域に設定。外部比較は平均有病期間4年に設定して比較した。津田教授は、人口密度が福島県より高い県外の症例把握を急ぐべきだとコメントしている。
参考資料
※UNSCEAR2013報告書のデータと福島県民健康調査データをもとにOurPlanetTVが作成
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記者会見
福島県内で実施されている甲状腺検査は、チェルノブイリ原発事故後、小児甲状腺がんが増えたとの経験をもとに計画されてたもので、2011年10月から、福島県飯舘村や川俣町山木屋地区など、比較的被曝線量の高いと推測される地域から検査を開始した。2011年5月1日に計画された最初の健診計画では*、避難指示区域などのみを調査対象とし、会津地域(会津若松市、喜多方市)をコントロール群(比較対照地域)とする予定だった。しかし、その後、全県を検査対象とする健診に変更。甲状腺がん検査は、事故当時18才以下だった子ども36万人を超音波診断する世界最大規模のスクリーニング体制が構築された。
もともと100万人に1〜2人程度発症するという極めて稀な病気である小児甲状腺がん。チェルノブイリ原発事故では、事故後4年目以降に、小児の間で甲状腺がんが増えたとされているため、同検査は2011年から2013年度末までの検査は「先行検査」と位置づけ、この「先行検査」の数字を「ベースライン」として、その後の数値の変化によって、「被曝影響かどうか」の判断をすると計画された。
検査当初、社会問題となったのは、検査結果の通知に関してである。36万人という大規模な人数を2年間で検査するためには、一人当たりの診断時間を短時間に留めなければならない。1次検査は主に技師がエコー検査を担い、所見のある子どもの動画データのみを保存し、専門医が週1回判定会でこの動画を分析。2次検査に回すかどうかを決定する。子どものもとに届く通知は「A1」「A2」などと記載された簡単な書面のみだったことから、保護者の間で不信感が高まり、「1次検診時に医師から直接、所見を聞くことができない」「エコーの画像をその場でもらえない」「診断時間が十分ではない」「見落としがあるのではないか」などといった声があがった。また、独自に健診を実施する市民グループなども登場した。**
環境省の3県調査
「放射線による影響があるのではないか」。検査が進むにつれて、のう胞があると診断される割合が5割を上回り、保護者の間に不安が高まった。このため、環境省は「甲状腺結節性疾患追跡調査事業」を展開。青森県、山梨県、長崎県の3県の国立大学付属小中高校を対象に甲状腺エコー検査を実施した。その結果、検査結果が判明した4,365人のうち、結節や嚢胞を認めなかったA1判定が1853人(42.5%)、5ミリ以下の結節や充実部分を伴わない 2ミリ以下ののう胞を認めた A2 判定は、2468人(56.5%)、5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上の嚢胞を認めたB判定は44人(1%)で、2次検査が必要なB判定の割合は、福島県の0.7%より多かった。
この検査結果は一部のメディアで大きく取り上げられ、福島の甲状腺検査の結果が他の地域と同様であるとの根拠とされた。しかし、この検査は福島県内の検査と異なり3才未満が対象になっていない。報告書は、2〜5歳の集団が他の年齢層よりも少ないこと。全体的に女性がやや多いことから、 有所見率は本来の値よりも高めに集計されている可能性があることを留意するよう述べた上で、「3地域ごとの結果の解釈については考慮すべき点も少なからずあり、単純に地域ごとの有所見率を比較することには慎重であるべきと考えられる。」と記載されている。
なお、この検査は1次検査段階で終了する計画だったが、B判定となった子どもたちの扱いが課題となり、追跡調査を決定。B判定となった44人のうち31人の同意を得て、2次検査を実施した。その結果、31人のうち20人に1ミリを超える結節が認められ、2人が穿刺細胞診を実施。1人が悪性と診断され、術後に乳頭がんとの最終診断を得ている。
環境省「平成24年度 甲状腺結節性疾患有所見率等調査 成果報告書」
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/attach/rep_2503a_full.pdf
環境省「平成25年度 甲状腺結節性疾患有所見率等調査 成果報告書」
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/reports/h2603a.pdf**
被曝影響を判断する道筋たたず
検討委員会ではじめて、甲状腺がんの子どもがいると広報されたのは、検査開始から2年が経過した2012年9月、第8回検討委員会である。口頭で甲状腺がんの子どもが1人見つかったと公表された。以降、第9回目(同年11月)の会議で2人、第10回目(2013年2月)10人、第11回目(同年6月)28人、第12回目(同年8月)44人、第13回目(同年11月)59人、第14回目(2014年2月)75人、第15回目(同年5月)90人、第16回目(同年8月)104人と、次々に「悪性・悪性疑い」と診断される子どもが判明し、当初の設計が揺らいでいる。
もともと100万人に1〜2人と言われてきた甲状腺がんがなぜこれほど多く診断させるのかー。かつて県民健康調査検討会の座長を務めていた長崎大学の山下俊一教授は、2014年2月に東京で開催された「国際甲状腺ワークショップ」で、(1)チェルノブイリと福島では放射線量が異なる、(2)スクリーニング効果が生じている、(3)ハーベストエフェクト(死亡後に発症する病気がスクリーニングによって事前に発見されること)という3つの理由をあげ、「今後も増えるだろうとは予測していない」と結論づけた。***
一方、疫学の専門家から、単なる「スクリーニング効果」では説明がつかないとして、甲状腺評価部会の部会員でもある国立がんセンターの津金昌一郎教授が、スクリーニングによる過剰診断の恐れを指摘。同部会員の東京大学・渋谷健司教授も、現在の健診方法では被ばくとの因果関係を証明するのは難しく、「進行するはずのない甲状腺癌の過剰診断および過剰治療の可能性がある」と、医学雑誌「ランセット」に甲状腺検査体制の再考を促す論文を投稿した。****
こうした批判に対し、検査責任者である鈴木眞一は反論。「手術しているケースは過剰治療ではない」「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、手術の必要性を主張した。同年11月の評価部会では更に詳細を報告。2014年6月末までの執刀を行った手術摘要例52例のうち、腫瘍が10ミリ以上だったものが42例。10センチ以下12例もそのうち1例はリンパ節転移、2例は多発性肺転移をしていると言及した。さらに7例も気管や反回神経に近く、経過観察で済む症例は2例であるとして、ほとんどがハイリスク症例であることを説明した。*****
同じ会議で、国立がんセンターの津金教授は、「福島県における甲状腺がん有病者数の推計」を公表。8月までに公表された104 人(男性 36、女性 68)が甲状腺がんと診断された場合、通常の約 61 倍(男性 90、女性 52)となると分析。35 歳までに臨床診断される甲状腺がんを全て検出したことになると説明した。その上で、「単なるスクリーニング効果では説明できない」として、「 何 らかの要因に基づく過剰発生」か「過剰診断」かのどちらかしかあり得ないとの見方を示した。その上で、現状では「被曝による過剰発生」は考えにくいとし、無症状で健康な人に対する精度の高い検査は、不利益をもたらす可能性があるという認識を共有する必要があると結論づけた。
このように疫学研究者による「過剰診断」との主張は根強く、2014年12月、原発事故に伴う住民の健康管理を検討する環境省の専門家会議において、「コホート研究」へと見直しをするよう提言がなされた。こうした経緯を受け、今日の検討委員会でも、内部線量を推計することの重要性が確認された。
*福島健康調査の計画案入手〜喜多方と会津は対照地域(2014年4月22日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1764
**「必ず誤診」 訴訟恐れ巨額保険加入 ~福島県甲状腺検査
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1593
*** 福島の甲状腺がん「放射線影響ではない」〜国際会議(2014年2月24)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1732
****「甲状腺検査は過剰診療か」がん増加で激論〜福島健康調査(2014年3月1日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1735
*****リンパ節転移が多数~福島県の甲状腺がん(2014年6月10日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1793
******福島県民健康調査「第4回甲状腺検査評価部会」(2014年11月11日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1853