東京電力福島第一原発事故に伴う住民の健康調査に関する健康影響を検討している専門家会議で5日、傍聴者が浮島政務官に対し、長瀧重信座長の解任を求める要望書を提出した。また、次回には取りまとめる予定だった「中間とりまとめ(案)」のたたき台について委員から異論が続出。事務局を担う放射線健康管理担当参事官室は、スケジュールも含めた大幅な修正を迫られた格好だ。
関東在住の母親ら「座長解任」を直訴
これまで8回の議論を重ねてきた専門家会議だが、大半の時間を線量評価に費やし、本来の目的である健康管理に関する議論は十分に実施されていない。こうした状況に苛立ちを感じてきた母親らが会議開会前、長瀧座長の解任を求める要望書を浮島政務官に手渡した。
要望書を手渡したのは「放射能から子どもを守ろう関東ネット」のメンバーら。「被ばく量が少ないため、健診の拡大は必要ない」する結論ありき会議運営をしているとして長瀧差長を批判。公正な議事進行ができる人物に会議を運営してほしいとし要望した。さらに「支援法が成立した時代とは違う」「誰が被ばくしているのか」など、長瀧氏の過去の発言についても、今も被曝を強いられている被災者の心情を踏みにじっていると問題であるとした。
5ミリ以上被ばくした人はいない?
会議ではまず事務局が、次回の「中間まとめ」に向けて「線量評価のとりまとめ案」を説明した。しかし、福島県立医大の阿部正文副学長が「福島県内の外部被曝は5mSv未満が99.8%だと言うがそれがすべてではない。不確実性がある」と記載を見直すよう要望。また日本原子力研究開発機構の本間俊充安全研究センター長が、「これではミスリーディングをもたらす。100ミリを超える被曝を受けた住民がいたとは考えられないという記述がありながら、その後で、100ミリ以上受けた者がいる可能性を否定することが出来ない、という記述が併存するのは科学的にはあり得ない文章。こういうまとめ案をつくることがいいことなのか」と厳しく批判した。
また「リスク評価」に関しては、日高病院の佐々木康人腫瘍センター特別顧問が、集団線量の考え方が安易に利用されているなどと指摘。発言内容をそのまま列記する方法が良いのか検討する必要があるなどとした。この後、日本医師会の石川広己常任理事が、「このまとめは、リスクが極めて低いばかりと書かれている。あと2回と聞いているので、早く健康調査や医療施策について歩を移すべきだ。」と主張した。
この発言に対し、得津馨参事官が顔色を変え「2回とこだわっているわけではない」と弁明。本間委員が再び「線量評価やリスク評価が厳密でなければ、健康診断について議論できないわけではない」と発言するなど、他の委員も石川委員に同調したため、想定していた当初のスケジュールや議論の進め方を変更せざるを得なくなった。
福島の甲状腺がんは全て高リスク例
この日は、甲状腺がんの手術では評価の高い隈病院の宮内昭院長と国立がんセンターの津金昌一郎センター長が、それぞれ参考人として意見を述べた。その中で宮内院長は、福島県立医大放射線医学センターに設置されている「甲状腺検査専門家委員会診断基準等検討部会」の委員に加わっていることを明かした上で、福島県の甲状腺がんのうち、少なくとも7割が1センチ以上かまたはリンパ節転移のあるものであると報告。中には遠隔転移の症例もある説明した。また残り3割についても、反回神経に近い、または気管に近い高リスク症例であることを明らかにした。
甲状腺の健診に関する議論の過程で、長瀧座長は、甲状腺検査について「10人に1人、100人に1人の甲状腺を取っても安心であれば良いという考えはどうか」などと発言。宮内院長からは「それは極端な数字だと思う」とたしなめられる場面もあった。
こうした座長の姿勢への不信感は強く、会議後、傍聴席には「偏向座長は要らない」「心はあるのか」などと書かれたプラカードを掲げる人の姿もあった。