東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う住民の健康診断のあり方等を検討する環境省の専門家会議が26日開催され、福島県外での健康診断について、座長の長瀧重信氏は、子ども被災者支援法が成立した当時とは状況が変わったと発言。UNSCEARでのリスク評価が低い福島県外での健康調査について、消極的な姿勢を示した。
甲状腺の等価線量評価は実測重視
会議では冒頭に、被爆線量評価のとりまとめ案について議論され、外部被曝については個人線量計、甲状腺等価線量についてはサーベーメーター、内部被曝についてはホールボディーカウンターの、それぞれ実測値を重視する方針を確認。甲状腺がんなどに影響する放射性ヨウ素による甲状腺等価線量については、2011年3月に川俣町や飯館村で実施された1080人の実測値を「重要な指標」とした。
初期のヨウ素被曝に関しては、事故後に福島県が実施した外部被曝のスクリーニング検査データをもとに甲状腺の等価線量を推測した論文が紹介されたが、国際医療福祉大学の鈴木元教授は、靴底や手の表面などに付着していた放射性物質を計測した可能性があると指摘。正確な評価は出来ないだろうと論じた。一方、日本学術会議の春日文子副会長は、論文に書かれていないことを憶測するのは妥当ではないと疑義を呈したが、実測重視の方針は維持され、線量評価の議論は終了した。
福島県外の健康診断には消極的
市民の間でもっとも関心が高い健康診断の議題では、まず日本医師会の石川広己常任理事が、日本医師会と日本学術会議が2月に開催した合同シンポウムの議長声明内容を説明。地元、千葉県鎌ケ谷でも甲状腺がんエコー検査のニーズが高まっているとして、国の信頼回復のためにも、長期的な健康支援体制の確立が重要だと主張した。
この後、大阪大学の祖父江友孝教授から「がん検診の利益と不利益」と題した発表があり、韓国での甲状腺がん検診や海外での前立腺がん検診でがんの発見率が上がりすぎ、不利益が起きていると説明。スクリーニング検査をすることによるマイナス面を強調した。こうした発表を受け、鈴木元教授は、「住民の健康不安に関して、検診がベストアンサーなのか? いまだに水道水も飲めないという保護者がいる。」「JCO事故の後も、毎年、がん健診があるために、放射線の影響でがんが増えると思っている人がいる」などとして、健康診断以外のリスクコミュニケーションを強化すべきだとの考え方を示した。
これに対し、再び石川氏が発言。松戸や鎌ヶ谷など福島県外のホットスポットにおいても、
「子ども被災者支援法」の理念にのっとって健診の導入を検討すべきだと念を押したのに対し、元放射線影響研究所所長の長瀧重信座長は「「子ども被災者支援法」が成立した時代と今とでは(違う)。線量評価がどんどん出来てきた、リスクについても、科学的にものが言えるようになってきたのは大きな違い」と反論。「放射能が怖いから、こういう検査をやりましょうというのと、放射線のリスクはないけど(診断する)のは科学的な議論が違う」と、国連科学委員会(UNSCEAR)報告書でリスクが低いとされている福島県外で健康診断を行うことについて、消極的な姿勢を示した。
会議7回目にしてようやく健康診断の関する議題に入った専門家会議。市民の不安に応えて健康診断をすべきと考える石川委員と健診の不利益を主張した祖父江委員がそれぞれ資料提出をしたものの、割り当てられた時間は5分と25分。会議の方向性が透けて見える時間配分となった。これまで原爆症認定訴訟で国側の意見書などに名前を連ねてきた放射線問題の専門家」らを中心に、新たな健診について消極的な発言が繰り返された。
ノーカット版(環境省公式動画)
【会議に関する動画、記事】
環境省「被曝影響会議」撮影禁止の方針〜副大臣は再検討と発言(2013年12月19日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1704
第1回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(2013年11月11日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1675
住民ら「結論ありきのメンバー」と批判〜環境省健康調査専門会議(2013年11月1日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1670
第3回 住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(2014年2月
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1733
がんリスクめぐり激しく応酬〜第4回健康管理のあり方会議(2014年3月)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1754
第5回 原発事故に伴う住民の健康管理〜国連科学委報告もとに対応へ(2014年5月)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1769
第6回 原発事故に伴う住民の住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(2014年5月)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1780