福島原発事故の健康問題をめぐり、去年6月に国連人権理事会で日本政府に対して勧告を出したアナンド・グローバー氏が20日、国会内で講演を行い、政府関係者と意見交換を行った。グローバー氏は政策決定には影響を受けた市民の参加が重要であるとした上で、政府は健康調査などについて包括的な政策を展開すべきだと指摘した。
政策決定には市民の参加が重要
グローバー氏はまず、国連人権理事会の特別報告者として、日本政府も批准している国連の「社会権規約」第12条に定められている健康の権利を守るためには、「参加の権利」と「科学的証明」が重要であると強調。事故の影響を受けている被災者やそのコミュニティが政策決定プロセスに参加することが必要であり、情報の公開や避難するかどうかの決定も含め、当事者の参加が欠かせないと述べた。
さらに、政策を決定する時には科学的な証明に基づいたものである必要があると主張。チェルノブイリ原発事故の影響は子どもの甲状腺がんだけとされているが、公開されているデータは限定的で、チェルノブイリ事故だけを前提にするのは間違え。」とした上で、最初から被害を限定せず、年間1ミリシーベルト以上の地域では包括的な健康調査を行うよう日本政府に求めた。
100ミリ以下は影響めぐり見解相違
環境省で放射線影響を担当している桐生康生参事官は、「放射性の健康影響が明らかになっているのは100ミリとか200ミリのレベル。それ以下は、健康影響があるかないかはわからず、あったとしても、他の要因に隠れてしまうくらい小さいと認識している。広島や長崎などの調査でも、100ミリシーベルト以下の線量は明らかな健康影響は認められていない。1ミリシーベルトの根拠を聞きたい」と反論した。
これに対して、元国会事故調査委員会委員の崎山比早子氏は、原爆の被曝調査を長期にわたって実施している放射線影響研究所の小笹晃太郎氏が2012年に発表した論文を取り上げ、「長崎広島の調査で100ミリ以下は影響がないというが、ちゃんと論文を読んだのか。論文によるとリスクがゼロのときは線量がゼロ以外ないと書かれている」と指摘すると、桐生参事官は「その論文は把握していない」としたうえで、「放影研の先生方から直接聞いた。」と主張した。
このほか、外務省 山中修人権人道課長をはじめ、復興庁の佐藤紀明参事官や原子力規制庁も室石泰弘監視情報課長も登壇し、日本政府の考えを述べた。人権問題に取り組む国際NGOヒューマンライツ・ナウの事務局長で弁護士の伊藤和子さんが、「政府の間には、グローバー勧告は「個人的なもの」としてきちんと対応していない」と問いただすと、外務省の山中人道課長は「国連人権理事会の選んだ特別報告者であり、政府としては尊重し、勧告に沿った改善の努力は必要」と述べた。
グローバー氏は、福島県や京都市でも講演を行う予定。
グローバー勧告(HRN仮訳)
http://hrn.or.jp/activity/130627%20Anand%20Grover%27s%20Report%20to%20th…
日本政府の反論(外務省HP)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/files/kenkou_comment_121126_1.pdf
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01.html
「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第 14 報、1950-2003、がんおよび非がん 疾患の概要」(サマリー)
http://www.rerf.jp/library/rr/rr1104.pdf
Studies of the Mortality of Atomic Bomb Survivors, Report 14, 1950–2003: An Overview of Cancer and Noncancer Diseases
http://www.rerf.or.jp/library/rr_e/rr1104.pdf