米国の言語学者ノーム・チョムスキー氏が来日中、福島の親子や自主避難を余儀なくされた父親と面会し、彼らの耳を傾けた。国から十分な被ばく低減策や避難政策が示されないまま迎える3年目の春。「ふくしまの声」を聞いたチョムスキー氏は「原爆の被害にあった日本が、放射能の恐ろしさを理解しないのか」とため息をもらした。
チョムスキー氏と面会したのは、福島市内で暮らす武藤恵さんと小学3年生の玲未(りみ)ちゃん親子と郡山から静岡県富士見市に自主避難した長谷川克己さんの3人。チョムスキー氏が来日にあたって、福島の人の話が聞きたいと、「ふくしま集団疎開裁判」の柳原敏夫弁護士に要望し、実現した。チョムスキー氏は、早い時期から、子どもたちを福島から集団で避難させる目的で仮処分を申し立てた「ふくしま集団疎開裁判」の原告団に支援のメッセージを送っていた。
武藤さんは、事故後、十分な情報が提供が行われない中で、「子どもたちを外に出してしまった」と悔やみ、その3ヶ月後から、中学生になる息子が鼻血を出したり、倒れるなどの症状が出たと話す。「長男は目に見えない放射能が怖いっていうんです」と訴えると、チョムスキー氏は深いため息をもらし、「なぜ、過去に原爆の被害を受けた日本が、放射能の恐ろしさを理解していないのか。」と述べた。
さらに、「残念ながら、似たようなことが世界で起きている。国家というものは、必ず市民にウソをつき、自分たちを守ろうとする。これを克服できるのは市民の力しかない。よい規模の大きな組織化をはかり、世界の大規模な組織とつながることだ」と勇気づけた。
2011年8月に息子と妊娠中だった妻と3人で、郡山から静岡に避難した長谷川さんは自主避難の困難さを吐露。最後に子どもを思う気持ちを表した自作の詩を披露した。
「発展」 長谷川克己
昼下がり、傍らで息子と娘が戯れる。
「アー、アー、アー」と笑いながら近寄る妹をあやすお兄ちゃん。
「お兄ちゃんのことが大好きなんだよね。」
誇らしそうにお兄ちゃん。
放射能は、この子たちの体をもう冒しはじめているのだろうか?
体の中に入ってしまったのだろうか?
全部貰ってあげる方法はないのだろうか?
見知らぬ大人たちは、この子たちを置き去りに、
どんな発展を目指しているのだろうか?
お父さんとお母さんが、ずっと守ってあげるからね。
先に死んでしまっても、ずっとずっと守ってあげるからね。