原子力規制委員会は１１日、東京電力福島第１原発の事故で避難している住民の帰還に向けて、線量基準や防護措置などを検討する会合を開き、「避難解除には年間20ミリを下回ることが必須」とする報告書を提示した。有識者委員からは、次々と修正項目があがり、「不本意な部分もある」との意見もあがったが、座長の中村佳代子委員が議論の打ち止めを表明し、今月中にも規制委から政府の原子力災害対策本部へ報告される。
同報告書案では、線量の考え方として、「100 ミリシーベルト以下の放射線による被ばく線量域では、 がん等の影響は、他の要因による発がんの影響等によって隠れてしまうほど小さく、疫学的に健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されている。」と記載。100ミリシーベルト以下の健康影響を否定する記述となっている。
これに対して、日本学術会議の春日文子副会長は「がん以外の疾患については、100ミリシーベルト以下でも様々な議論がある」「100ミリシーベルト以下の健康影響を席学的に証明した論文もあり、その論文をここで否定できない」などと修正を求めた。しかし、放射線医学研究所の明石真言理事や福島県立医科大の丹羽大貫特任教授が反論。文章の修正は事務局とメールで調整することとなった。
このほか、委員から出た修正意見は十数カ所に及ぶが、公開の議論は今回の会合で打ち切りとなり、事務局と委員の間で調整した後、原子力規制委員会にかけることとなった。これに対し、有識者委員らは「肝心の対策の部分の議論が尽くされていない」「不本意な形だ。」「委員が責任を果たせるようなフォローアップの場を設けるべきだ」などの不満があがった。
同報告書案で着目すべき点は、2011年7月19日に原子力安全委員会が臨時会議で示した「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本 的な考え方について」および8月4日に示した「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故における 緊急防護措置の解除に関する考え方について」と矛盾している点である。
原子力安全委員会は、２０キロ圏内で避難解除を行う際の条件として以下を掲げていた。
（１）福島第一原子力発電所の状態や状況から、当該区域において屋内退避、避難の対応を要する事態が発生する可能性が極めて低く、かつ仮にそのような事態が発生しても対応のための十分な時間的余裕があると判断されること。
（２）当該区域において住民が受ける被ばく線量が、解除日以降年間 20 mSv 以下 となることが確実であり、年間 1〜20 mSv の範囲で長期的には参考レベルとして年間 1 mSv を目指して、合理的に達成可能な限り低減する努力がなされること。
（３） 当該区域において、被ばく低減のための適切な管理、除染・改善措置等の防護措置に関して最適化された計画が明確になっており、当該計画の中で、被ばく低減化の努力を図り、長期的には住民が受ける被ばく線量を年間 1mSv 以下とする方針が示されていること
しかし、今回、同報告案では、、除染の長期目標である「年間１ミリシーベルト」について、「放射線による被ばくにおける 安全と危険の境界を表したものではない」として、除染の目標はあくまでも長期（数十年先）であることを明確化。また、その際の数値は、従来の空間線量率から推測した被ばく量ではなく、個人線量計での実測値を目もととした実効線量とした。空間線量から推測した数値と比較して、個人線量計を用いた実測値は、３分の１から５分の１値が低く出るとされている
これらにより、避難解除の条件および除染目標が大幅に緩和されるとともに、住民の被曝量増加と引き換えに、東電が負担するはずだった除染費用を国費が肩代わりしやすい環境が整った。
会議資料
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/kikan_kentou/20131111.html
原子力安全委員会７月１９日資料
「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai18/18_11_gensai.pdf
原子力安全委員会８月４日資料「緊急防護措置の解除に関する考え方について」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai18/18_10_gensai.pdf
関連ニュース
2013年8月28日配信
避難解除に向け、規制委が「安心安全対策チーム」設置
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1636
2013年9月17日配信
「年１ミリ達成は数十年後〜避難解除に向け政府方針」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1646
2013年10月3日
第２回 帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1652
2013年10月16日
「帰還ありき」に有識者から異論相次ぐ〜避難解除に向け
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1658
