「原発事故子ども・被災者支援法」の担当をしている復興庁の参事官が、ツイッター上で、被災者や「子ども被災者支援議連」の議員らを中傷する発言を繰り返していたことがわかった。参事官は、国会議員から質問通告を受けることを「被弾」と表現。国会を軽視するような言葉も連発していた。「子ども被災者支援法」が議員立法として成立して間もなく1年。原発事故という未曾有の事故を担当しているという自覚が欠如した霞ヶ関官僚の不謹慎な態度が浮き彫りになった。
「左翼のクソども」〜被災者や専門家を中傷
ツイッター上で問題発言をしていたのは、復興庁の水野靖久参事官。水野参事官は原発事故子ども・被災者支援法が成立した1月ほど後の2012年8月に復興庁法制班の参事官に就任「基本方針」を取りまとめる担当者として、自治体からの要請や市民との交渉に対応し、市民の中には「きちんと話を聞いてくれる担当者」と評価する声もあった。
しかし、市民団体主催の院内セミナーに出席した今年3月7日夜、水野氏はこんなツイートをしていた。
(水野氏(手前右)が「左翼のクソどもからひたすら罵声を浴びせられる集会」と呼んだ集会 写真:西中誠一朗)
このセミナーは、「放射線被ばくと健康管理のあり方に関する市民・専門家委員会」が主催で、元国会事故調委員の崎山比早子さんをはじめ、東京大学(当時)の島薗進教授や小児科医の山田真医師らが参加。専門的な観点から低線量被曝に関する分析が発表していた。また、双葉町の井戸川克隆元町長も参加し、「公務員は国民のために働くべき」と子どもたちの健康を守るよう訴えていた。誠実な雰囲気を装いながらも、ツイートからは、被災者の声を受け止める姿勢が全くないことが読み取れる。
11月に福島県の川俣町に出向いた際は、「今日は、田舎の町議会をじっくり見て、余りのアレ具合に吹き出しそうになりつつも我慢w」と、復興庁の担当者でありながら、被災地を見下すような発言をしていた。
「被弾なう」〜国会を軽視する発言乱発
水野参事官は総務省出身で、2010年8月から2012年8月まで船橋市の副市長に出向。その後、復興庁法制班の参事官として、原発事故子ども・被災者支援法の窓口となり自治体からの要請や市民との交渉を受けてきた。ツイッターは、2010年8月8日、船橋市副市長就任に合わせて開始し、フォロワーは1200人を上回る。当初は実名で行っていたが、復興庁に戻った後の2012年10月に匿名に切り替えた。アイコンはリラックマ。ツイッターでもリラックマ好きを公言しているとおり、議員と交渉する席でも、首にリラックマのストラップをかけていた。
その水野氏が去年8月以降、ツイッター上で、最も発している言葉が「被弾なう」だ。「被弾」とは、国会議員の事前通告の答弁書を作成する担当になること。一部の官僚の間で流通している霞ヶ関用語だ。水野氏は、国会の通告がある度に、「被弾」を嘆くツイートをし、特に「子ども被災者支援法」の問題に熱心に取り組んでいる議員に対して、小バカにするような中傷発言を繰り返してきた。
例えば、社民党の福島瑞穂議員に対しては、「20分の質問時間しかないのに29問も通告してくる某党代表の見識を問う」などと批判。また、共産党の高橋千鶴子議員が「明日、震災復興の集中審議が決まりました。」とツイートすると、水野氏はすかさず「通告出してないのはアンタだけ」と返すなど、質問を受ける側の真剣さはまるでない。
副市長という行政のナンバー2から、議員に質問を浴びせられるポストへ異動してきた水野氏。「今日は、国会議員多数に二時間近く責められ続けて激しく消耗」(10月4日)「議員に罵倒されるのを楽しむ余裕が出てきたw」(10月11日)など、子ども被災者支援議法に関わる議員に対する嫌悪感が漂う。タクシーのドライバーが釣り銭を多く返してくれたことへ対し感謝のツイートをしたみどりの風の谷岡郁子議員に対しては、「釣銭詐欺」と毒づいていた。
矛先は現職の大臣にも及ぶ。子ども被災者支援法に熱心だった自民党の森まさこ大臣がラジオ出演した折には、「 我が社の大臣の功績を平然と「自分の手柄」としてしまう某大臣の虚言癖に頭がクラクラ」と非難している。
「国会なんか永遠に解散していればいいのにと思える穏やかな一日でした」(12月4日)、「皆で福島に行ってしまえば、議員対応も法制局対応も主計局対応も出来なくなるから、楽になりそうだw」(1月9日)など、水野氏の国会軽視発言には、”議員が不在であれば、自分たちの思い通りにできる”という考えが透けて見える。
また政権交代に際しては、「明らかに政治主導が定着しているのに、なぜ官僚主導と言われ続けるのか理解不能」と言いつつも、「官僚組織は、大臣が無能であれば徹底的に指示を骨抜きにするが、有能であれば盛り立てる。」と、結局は政治を動かすのは官僚次第と言わんばかりのツイートをしている。
「子ども・被災者支援法」を放棄?
民主党政権時代、水野氏は、支援法の「基本方針」を策定には「住民の声を聞くことが重要」と発言していた。しかし、自民党に政権交代するとがらりと態度が変わり、「政府は必要な措置を講じる。何が必要かは政府が決める」「支援対象地域は政府が決める」と市民や議員の要請を突っぱねるようになった。子ども被災者支援法の基本方針が決まらずに間もなく1年を迎えるが、水野氏は3月8日、気になる発言をしている。
現在、子ども被災者支援法の支援対象地域の指定に関しては、復興庁から原子力災害対策本部に、ボールが投げられているが、根本復興大臣がこの件を提案したのはこの発言の前日。3月7日に開催された原子力災害対策本部の会合だ。復興庁は15日に、既存の政策を「支援パケージ」という名目で発表したが、子ども被災者支援法の理念からは大きくかけ離れている。
水野氏は、直後の18日に、この「支援パッケージ」について説明するため、子ども被災者支援議連で会長をしていた自民党の馳浩議員を訪問している。馳議員はその日の午後に議連を退会し、本来なら出席するはずだった翌19日の議連にも欠席。この日を境に、自民党の他の議連役員も相次いで議連を退会し、現在、自民党の役員はゼロとなった。
自民党の議連役員が欠席する中、開催された19日の議連では、子ども被災者支援議連の国会議員が「支援パッケージ」は十分ではないとして、野党の議員らが被災者へ対する意見聴取会を開催すべきと主張したのに対し、水野氏は「そもそも法律をよく読んでください。政府は措置を講じる。必要な措置は政府が決める。そう書いてあります。」と議員立法を策定した議員を前に言い放った。その夜につぶやいたのが以下のツイートだ。「まぁいいか」という一言に、この問題に対する水野氏の不真面目な態度が表れている。
最も重要な仕事は党本部に缶ビール補充
福島出張に出かける度に必ずツイートする水野参事官。支援パッケージが示される2日前の3月13日、「今日の最も重要なお仕事は某党本部の冷蔵庫に缶ビールを補充するなど。その大半は自分で消費するんですが…」と発言。1月21日にも「某党本部でビールを飲むなど。」と発言している。
一連の発言に問題を感じたOurPlanetTVは、水野氏のツイートと実際の行動がどの程度一致しているのかを調べるために、水野氏の出張記録を情報公開請求したところ、水野氏のツイートは完全に一致した。
ちなみに、水野氏は、OurPlanetTVが情報公開請求した際、、すかさず「自分個人を名指しして、個人の出張記録を全部出せという情報公開請求きたw. 粘着やだねぇ」とツイート。一連の行動から、水野氏のツイート発言が実際生活とリンクしていることが裏付けられた。しかしながら、同ツイートは、そんな発言をするとバレるのではないかという知り合いの助言を受けて、即座に削除された。水野氏は、復興庁で情報公開を担当している法制班に属している。
水野氏は、昨日6月11日夜10時前に突如アカウントを削除。これを受けて、OurPlanetTVが12日夕方、水野氏の話を聞こうと復興庁の広報室に問い合わせたところ、「既に退庁した」と回答を受けた。しかし、実際には復興庁内に留まっており、夜22時半、復興庁の入居している三会堂ビルから出てきた。
取材を受けたくない場合は「居留守」を使うのが常套化しているのか。水野氏の不謹慎は発言はもちろん批判されるべきだが、ツイッターをやっていたために、たまたま、明るみに出ただけという可能性もある。
子ども被災者支援法という非常に重要な案件に関しては、官僚が属人的に対応するのではなく、外部の専門家なども含めた、透明性の高い組織が必要ではないだろうか。
水野靖久氏のツイッター全発言(ツイー党)
http://tweetou.net/politicians/jp1tej/
主な発言一覧(OurPlanetTVによるまとめ)
http://togetter.com/li/516870
復興庁 水野参事官 旅行命令簿
http://www.ourplanet-tv.org/files/130611-01.pdf