福島第一原発事故後に東京電力の記者会見に通い、東京電力に対して様々な追及を続けてきたフリーランスの木野龍逸さんが、先月27日以降、東京電力の記者会見に参加できない状態であることがわかった。
東京電力の広報部によると、木野さんは、先月27日に開催された東電の株主総会で、会場の議事内容を外部に配信したため、「事前にメディアのみなさんにお願いしていた約束ごとをお守りいただけなかった」として、会見の参加を「お断りした」と説明する。
東電の「お約束ごと」とは、会社の収支報告や監査報告などが行われる冒頭30分以降は、一切の写真やビデオを撮影してはいけないというもの。株主のプラバシーを配慮する観点から、こうしたルールを設けているという。このため、資料として、ICレコーダーで録音をすることは構わないが、音声や映像をそのまま流すことも禁止しているする。
気になるのは、マスコミと木野さんに対する対応の違いだ。東電の株主総会に関する報道において、多くのテレビ局が、東京都の猪瀬直樹副知事をはじめ、株主が隠し撮りしたと思われる映像を放送していた。東電の「お約束」をほとんどのテレビ局が侵していることになる。このことについて尋ねると、広報担当者は「事実関係の確認をする必要がある」とだけ答え、マスコミに対する「出入り禁止」の可能性については言及しなかった。
木野龍逸さんは、2011年3月11日に発生した福島第一原発事故以降、故・日隅一雄さんとともに、連日、東京電力の記者会見に通い、汚染水や被ばく問題など、隠蔽されている様々な問題を追及してきた。その内容は、岩波書店から刊行されている「検証 福島原発事故・記者会見―東電・政府は何を隠したのか」 にまとめられており、東電にとって、もっとも煙たい存在だ。木野さんに対して、東電会見への出席停止を通告した広報担当者は大きな声で「いままでありがとうございました!」と言ったという。
ジャーナリズムや知る権利に詳しい上智大学新聞学科の田島泰彦教授は、今回の件について「東京電力の株主総会は、たとえプライベートな組織であっても、公の性格を持つ。主催者の意思に反してもそれを報道することについて正当な権利はある」「東京電力は、行政機関と同じではないものの、非常に公共性の高い組織であり、総会という個別の事例で意見が違うからといって、取材・報道の重要な場である記者会見に出席させないのはおかしいのではないか」と話す。また、テレビ局が総会の質疑を放送していたことにも言及し「差別的な扱いと言わざるとえない」と東電の対応の疑問を呈している。