文部科学省は、5月31日、福島県内で高い放射線量が計測された学校に通う子どもたちの学校生活に関して、専門家からのヒアリングを行った。これから始まるプールを中止すべきかどうかなど、被ばくと心身の発達の両面から議論がおこなわれた。文科省が、震災後、子どもの学校生活に関してヒアリングをしたのは今回が初めてで、メディア関係者の取材のみで、一般市民には公開されなかった。
今回、ヒヤリングを行ったのは、長瀧 重信氏(長崎大学名誉教授(元財団法人放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)、衞藤 隆氏(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所副所長兼母子保健研究部長)、田中 英高氏(日本小児心身医学会理事長)、友添 秀則氏(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)の4名。文科省からは、鈴木寛副大臣らが出席した。
鈴木寛副大臣は、文科省は、福島県内の教育委員会に、年間被曝量を1~20ミリシーベルトの範囲で考える国際放射線防護委員会(ICRP)の指標を参考に、1ミリシーベルトをめざすことや、モニタリングの強化とともに、校庭等の土壌に関して、具体的な線量低減策も通知したと説明した。子どもの健康・発達に、それぞれの専門家から話をきいて整理し、国民に伝えたいと今回の趣旨を話した。
長瀧 重信氏(長崎大学名誉教授、元財団法人放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)は、チェルノブイリ原発事故の調査の経験上、被曝と分類された人々から、PTSDで自立できない人が数百万人と報告され、精神的影響が最大の被害であると説明した。また、放射線の被害に対する、前提とすべき国際的な合意は、科学的に影響が認められる最低の被害の100ミリシーベルであり、100ミリシーベルト以下の影響は不明で、充分に研究していない専門家の言動は社会を混乱させると話した。
衞藤 隆氏(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所副所長兼母子保健研究部長)は、放射線に関して、児童生徒や保護者、地域で暮らす人々は正確な情報を求めており、事実を知る権利が人々にはあると話した。また、子どもが健やかに元気に育つには身体運動の機会や環境を提供しなければならないと話した。
田中 英高氏(日本小児心身医学会理事長)は、放射線に関して、注意することは重要だが、保護者の過剰な不安は、子どもの心身を悪化させてしまうと話した。
友添 秀則氏(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)は、放射線量が健康に被害を与えない地域という前提で、スポーツ教育学の観点から、運動の制限は、子どもの発達上大きな問題があり、放射線ばかりの問題に目がいってしまい、長期的な視点から子どもたちの心身の問題を考えなければならないと話した。
意見交換
意見交換では、文科省から、福島県内の学校の屋外プール活動について、保護者が不安になっているとの現状が話されると、長瀧 重信氏(長崎大学名誉教授、元財団法人放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)は、プールの中の放射線物質を計り、健康にどの程度影響があるのかということを説明することが基本になるとし、測定した値については、「社会に出す前に、専門家の意見をきっちりと統一して、社会の人が信頼するような専門家の意見として出さないと不安はいつまでも解消されない」と答えた。最終的な判断は、「行政と保護者との話し合いで決まるのではないか」と指摘した。
文科省は福島県内の学校の夏のプールの授業に関して、なるべくプールサイドの時はバスタオルで体を隠しておいたほうがいいと、念には念を入れて言っているが、それが保護者から不安になると指摘されていることに、専門家に意見を求め、衞藤 隆氏(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所副所長兼母子保健研究部長)は、「(プールで泳ぐことが)できるなら、普段のプールを使っているような状況でよろしいと思いますし、運動も外で、マスクもせずにする。適切な衣類を身につけて、汗をかいたらふく。本来のできる環境を与えて、その中で運動するというのが大事だと思います」と答えた。
福島県内で一定の放射線量が計測された学校等に通う児童生徒等の日常生活等に関する専門家からのヒアリング(第1回)について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/05/1306573.htm