福島第一原発事故
2015/07/09 - 14:11

「自主避難者」住宅支援打ち切り〜国が主導か

原発事故に伴う「自主避難者」の住宅支援打ち切り問題で、OurPlanetTVは、国と県との交渉経過がわかる文書を入手した。被災者が署名4万筆を提出した前日に、国と福島県の間で協議を行なわれ、自主避難者は別の支援策に移行することが確認されていた。文書からは、1年の延長を要望するのが精一杯の福島県が、国に追い込まれていく様子が浮きぼりとなっている。

今回入手したのは、災害救助法にもとづく住宅供与に関して、国と福島県が協議した打ち合わせのうち、昨年9月から今年6月にかけて開催された計5回分の議事概要だ。一部、黒塗りされ非公開となっている。

昨年9月の段階で県は、避難区域も地震・津波避難者も、自主避難者も2019年3月までの延長を希望。しかし、自主避難者については、2年後の打ち切りとともに、支援策をセットで公表したいとの意向を示していた。

内閣府防災担当の兵谷芳康審議官と福島県の伊藤泰夫理事という国と県の幹部同士が顔を合わせた今年1月の協議では、福島県は「全体としてもう1年延長をお願いしたい。」と改めて県一律での延長を要望。同時に支援策を示す必要があるとの考えを提示した。

これに対し国は「確かに、支援策のない中で方向性を示すのは難しい」と同意する一方、「帰って来ようか悩んでいる人に対して、帰ってきてもらえるようどのように打ち出すかがある。」と発言。過疎化による人口減がある中で、福島はさらに原発事故があると指摘し、帰還者に「インセンティブ」を示すことが重要だとする考えを示した。

県一律の6年延長が精一杯
この後、国と県は、避難指示区域と地震・津波避難者、自主避難者の3つにわけて検討。今年4月21日の会合では、避難指示区域については一律に6年延長することに同意したが、地震・津波避難者については、自治体ごとに、世帯単位で延長を決める「特定延長」も視野に入れた議論となった。

災害救助法に定められている仮設住宅は、建物の供与期間が原則2年とされている。とはいえ東日本大震災は被害規模が大きく、復興住宅の整備も遅れていることから、2年目からは1年ごとに延長されてきた。しかし、震災から4年を機に、宮城県や岩手県の一部の自治体では、世帯ごとに延長するかどうか判断する「特定延長」を導入。岩手県と宮城県でそれぞれ7市町村がこれまで通り「一律延長」を継続している一方、岩手2市、宮城5市町が「特定延長」に切り替わった。福島に対しても例外ではない。

交渉にあたっていた被災者支援課の菅野健一主幹は、「6年というのは、災害救助法の枠組みでは過去最長。福島県は、原発の被害があり、他の県とは違うことを国は理解してくれた。県内一律の6年延長が精一杯」と理解を求める。避難者が少ない自治体や自主避難も含め、6年一律延長できたことは、「膝を詰めた交渉」の成果との認識だ。

5月12日には提示されていた協議書
福島県ではここ数年、毎年5月末までには、「応急仮設住宅の供与延長」を都道府県に通知してきた。このため、住宅支援の延長を求める自主避難者らが5月13日に、内閣府に出向き、4万筆の署名を提出。また15日には、福島県に署名を提出した。

「自主避難、住宅提供終了へ福島県調整 16年度で」
朝日新聞が一面トップで大きく報じたのは、その直後の5月17日だった。避難者らは打ち切り撤回を求めて緊急の記者会見を開催。内閣府や県に再三足を運び、窮状を訴えた。その際、対応した県は、「新聞報道の情報がどこから出たかわからない。まだ国と協議中なので何とも言えない」の一点張り。また国は「福島県からまだ協議書が提出されていないので何とも言えない」と繰り返した。

しかし実際には、5月8日には調整はほぼ終了し、避難者が署名を提出した前日である12日には、県から国に対し「協議書」の素案が示されていた。正式な提出は6月9日だが、この日の会議では、「今後の対応方針」や「供与期間」を確認。国が「自主避難者は、支援策への移行という考えに変わりがないか」と聞くと、県は「変わりはない」と回答。また供与期間の考え方についても、「判断が変わる可能性はあるか」との国の質問に、県は「ない」と答えている。県と国の方針は、この時、すでに固まっていたのである。

支援策なければ7年目の延長も?
県は4月21日の打ち合わせで、自主避難者の住宅支援について重要な発言をしている。「支援策がなければ7年目の延長も考えざるを得ない。支援策は必要である」というものだ。これに対し、国は「支援策がないという理由だけで延長の説明はできない」と対応。しかし県は「支援策は最低条件」だと食い下がった。

福島県の内堀知事は5月15日、住宅支援策打ち切りを発表するとともに、その後の支援策も公表した。示されたのは、移転費用の支援(県に戻る避難者に対する引っ越し費用の助成)と低所得世帯等に対する民間賃貸住宅家賃の支援、公営住宅などの住宅確保の取り組みの3点。移転費用の支援は秋にもスタートする予定だが、それ以外の2つ、つまり、福島県外で引き続き生活を継続を望む世帯への支援策は、まだ具体的に決まっていない。

「倍の署名、重く受け止める」との言葉は何だったのか
住宅問題の責任者は現在、内閣府で防災を担当する兵谷芳康審議官だ。兵谷審議官は、自治省出身で、熊本県の副知事、地方公共団体金融気機構理事などを経て、2014年10月から内閣府の大臣官房審議官の防災担当に就任している。ぎょうせいから「地方交付税」という共著を出版している。

また兵谷審議官の下で防災を担当し、1月の幹部会合に同席した田平浩二企画官は厚生労働省出身。雇用均等・児童家庭局均等業務指導室長から2013年に内閣の政策統括官防災担当へ異動した。2013年10月11日に、子ども被災者支援法の基本方針が閣議決定された当日、子ども被災者支援法・自治体議連の政府交渉に出席している。

現場の責任者として、県の対応に直接当たってきたのは、内閣府災害担当の熊野将一参事官補佐だ。熊野氏はもともと厚生労働省社会・援護局総務課災害救助・救援対策室の災害救助専門官。応急仮設住宅の担当が内閣府の所管になったため、内閣府に異動した。2013年9月30日、子ども被災者支援法の基本方針が策定された際、子ども被災者支援法市民会議が主催した政府交渉に出席している。

そして、県が「協議資料」の素案を提示した5月12日の協議に、熊野参事官補佐とともに出席していたのが、石井洋之主査と山内友和主査だ。石井主査も山内主査も翌日13日に、避難団体と面会。石井主査は4万筆の署名を受取り、「昨年の倍の署名が集り、重く受け止める」と応じた。

石井主査は、OurPlanetTVの取材に対し、「6月9日の協議書提出まではヒヤリングであり、交渉ではない。2019年の終了はあくまでも県が主導して決定したこと」と主張する。石井主査や山内主査は、この間、避難者との面会や政府交渉にほぼ毎回出席し、「福島県から協議書が出ていないので、答えられない」と繰り返していた。

5月13日に内閣府に署名を提出した「ひなん生活を守る会」代表の鴨下祐也さんは、今回の件について、「まかさ、ここまでごまかされているとは思わなかった。ウソをつかれたとしか言いようがない。面と向かって話していた人から隠されたというのは裏切られたという気持ち。避難者として本当のことを話して欲しかった。行政のやり方としてどうなのか」と憤った。さらに「私たちは本当に避難を続けたいので、考えを改めてもらいたい」と、国と県に対し、再検討を求めた。

データ:自主避難者は全避難者の5分の1
県の資料によると、昨年末における応急仮設住宅の供与戸数は 県内32,563戸、県外11,137戸で計4万3,700戸にのぼる。そのうち、避難指示地域は32,458戸。避難指示が解除された田村市、広野町は1,885戸、その他の自主避難地域などの避難者は9,357戸で、うち県外に4,663戸が県外に避難している。

なお整備が遅れている復興公営住宅の計画戸数は、原発避難者向けが4,890戸、地震・津波避難者向けが4,762戸で計9,652戸。避難者数に対し、4分の1以下となっている。

今回、入手した資料「応急仮設住宅の供与に関する国と福島県の協議経緯」
http://www.ourplanet-tv.org/files/20150709.pdf

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