2014/08/01 - 11:29

除染基準緩和〜空間線量から個人被ばく線量へ

東京電力福島第1原発事故に伴う除染の目標をめぐり、環境省は福島市など4つの市とともに、空間の放射線量より個人の被ばく線量を重視して除染を進めるとする中間報告をまとめた。環境省の井上信治副大臣が1日、福島県内の4市長らと会合を開いて発表した。
 
「毎時0.23マイクロシーベルトは目標ではない」
中間報告では、これまで年間1ミリシーベルトを達成するための指標とされてきた「毎時0.23マイクロシーベルト」は、除染目標や除染直後に達成すべき空間線量両立の目安ではなく、あくまでも「汚染状況重点調査地域を指定する際の基準」であると説明。伊達市などが実施していたガラスバッチの計測などを踏まえ、「空間線量率が毎時0.3から0.6マイクロシーベルト程度の地域に住む住民の平均的な年間追加被ばく線量は1ミリシーベルト程度になっている」として、空間線量より個人線量を重視する方針を示した。
 
今回の除染目標に関する見直しは、多額な費用をかけながらも除染の効果が十分にあがらないことを受け、福島市、郡山市、相馬市、伊達市の4つの市が今年4月、環境省と会合を持ち、「毎時0・23マイクロシーベルト」を見直すよう要望したことがきっかけだ。4市は環境省と会合を重ね、空間線量よりも被爆線量が低く計測される個人線量の実測値を用いることで除染目標を緩和し、復興予算を他の分野に振り向けるための地ならしに取り組んできた。
 
住民の不安解消に向けては、個人線量計の配布やリスクコミュニケーションの充実を進めていくとしている。会談後、井上環境副大臣は「福島県内のできるだけ多くの人に線量計を持ってもらい、データに基づいて防護対策を取りたい」と強調。記者から「福島県民全員に個人線量計をつけさせるのか」と追及されると、「できるだけ多くの方につけていただきたい」と否定せず、線量計の配布を増やす考えを示した。
 
国は2011年6月、年間の追加の被ばく線量が1ミリシーベルト以上、空間の放射線量に換算して1時間当たり0.23マイクロシーベルト以上の場所がある市町村を「汚染状況重点調査地域」に指定。国が直接、除染を行う「避難区域」とは異なり、国の手順に従って市町村が除染することにしている。同地域に指定されている岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の計102の市町村のうち、今年の春までに除染が終了しているのは16市町村にすぎない。今回の除染目標見直しが、4市以外にどのような対応をするのかについて、環境省は明らかにしていない。
 
専門家「場の管理に個人線量は使えない」
個人線量をめぐっては、田村市や川内村などの避難指示解除をめぐり、内閣府の原子力被災者生活支援チームが去年8月以来、放射線医学研究所や日本原子力研究機構との協力のもと、空間線量率との関係について調査を実施。空間線量に0.7を乗ずることによって、大人の個人線量を推定することができると、今年3月に公表した。
 
しかし公表の際、子どもは大人よりも遮蔽効果が低く、空間線量からの推計とあまり変わらないことや個人線量は「場の管理」には利用できないことなどが言及されていた。また支援チームが調査に使用したのは、公衆被曝を計測するために開発された新型の線量計であるのに対し、環境省と4市がモデルに使用したのは、検出限界の高いガラスバッチ。ガラスバッチと新型線量計の双方を販売している千代田テクノルの担当者は、OurPlaneTVの取材に対し、ガラスバッチは公衆の被爆線量を計測するにはふさわしくないと回答している。
 
「帰還の切り札「新型線量計」とは?〜被曝量を自己管理へ」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1626/
 

(日本原子力研究開発機構・核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部の百瀬琢磨部長が、個人被曝線量は「場の管理」に使えないことを説明)
 
また、今回示された0.6ミリシーベルトという除染目標の目安は、「放射線管理区域」と同等の汚染地域を居住区域として追認することを意味する。「放射線管理区域」とは、医療法施行規則や放射線防止規則で定められているもので、外部放射線による実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルトを超える恐れのある区域を指す。つまり1時間に換算すると0.6ミリ。法令では、「放射線管理区域」は標識をつけて管理し、18歳未満の立ち入りや飲食などは禁止されている。
 
配布資料
8月1日 除染・復興の加速化に向けた国と4市の取組 中間報告
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=24939&hou_id=18531
8月1日 除染・復興の加速化に向けた国と4市の取組 中間報告(概要)
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=24940&hou_id=18531
8月1日 環境省除染チーム「除染・復興の加速化に向けた国と4市の勉強会〜中間報告」
http://www.ourplanet-tv.org/files/140801-01.pdf
8月1日 除染に関する有識者との意見交換会〜国と4市におけるこれまでの知見から今後を考える
http://www.ourplanet-tv.org/files/140801-02.pdf

除染目標緩和と避難基準の経過(2013年2月〜2014年7月)
 
2013年
2月17日「原子力被災自治体、福島と国の意見交換会」
川俣町の古川村長、富岡町の遠藤町長(当時)、川内村の遠藤村長、葛尾村の松本村長、飯館村の菅野村長、福島県の佐藤雄平知事などが、年間1ミリの達成が容易ではないとして現実的な除染目標の設定を要望。
3月7日「復興推進会議•原子力災害対策本部合同会合>
根本復興大臣が避難指示解除に向け、線量水準と防護措置について、原子力災害対策本部で議論を行い、年内を目途に一定の見解を示すよう発言
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai29/gijiroku.pdf
 
3月22日 根本復興大臣の会見
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1558
 
4月〜6月「線量水準」をめぐる課長級会合開催
福島原発事故に伴う避難区域の住民帰還を促進するために、関係各省の課長級が集まり、「線量水準」をテーマにした会合を開催。参加者は、復興庁、環境省、原子力規制庁、原子力被災者生活支援チーム。個人線量計を利用する方向を確認。
 
「首長発言も黒塗り〜線量基準策で住民置き去り浮き彫り」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1647
 
7月下旬 支援チームが田村市で個人線量計実測実験
福島県田村市都路地区の特例宿泊実施に先駆け、内閣府原子力被災者生活支援チームが個人線量計による実測実験を実施。24時間の積算線量を公表。
 
8月下旬 環境省が福島県内のガラスバッチデータ収集
避難解除、原子力規制委員会の会議の開催に先駆け、環境省が福島県内でガラスバッヂによる
個人線量計の計測データを業者などから収集。
9月17日 原子力規制委員会「帰還に向けた安心安全検討チーム」設置
復興庁の根本復興大臣が3月7日に原子力対策本部会合で要請した内容に基づき、原子力規制
委員会に、避難解除の線量基準を検討する会合を設置。
9月上旬 支援チームが個人線量計の測定調査を実施
内閣府原子力被災者生活支援チームの要請を受けた日本原子力研究開発機構(原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が田村市都路地区、川内村、飯舘村の3カ所で新型個人線量計による測定調査実施
10月11日 原子力機構と放医研が個人線量計調査果報告書提出
原子力機構と放医研に依頼していた個人線量計調査の報告書が原子力被災者生活支援チームに届く。職員(現在、経済産業省に異動)が「帰還に向けた安心安全検討チーム」に提出するためのパワーポイントを作成したものの、提出を見合わせる。
 
放医研から支援チームに提出された中間報告
http://www.ourplanet-tv.org/files/141011中間報告.pdf
提出を見合わせたパワーポイント
http://www.ourplanet-tv.org/files/201311-01.pdf
 
11月11日 検討チームが避難解除の提言まとめる
「帰還に向けた安心安全検討チーム」が、支援チームの調査データが提出されないまま、個人線量計による線量管理を前提に20ミリシーベルト以下の地域への帰還を認める提言書をまとめる
 
2104年
4月14日 福島市など4市の首長が環境省と会合
福島市、伊達市、相馬市、郡山市の首長が環境省井上副大臣を面談し、毎時0.23マイクロシーベルトが達成できないとして、現実的な目標の設定を要望。
4月18日 支援チームが個人線量計調査の最終報告書を公表
 
「帰還の切り札だった「個人線量」半年公表せず〜支援チーム」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1763
 
6月14日 福島市ほか4市と環境省が勉強会

毎時0.23は除染目標ではないとの内容を確認。空間線量から個人線量を重視する方針が出される。
 

 

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